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『熱海殺人事件~ザ・ロンゲストスプリング~』を配信で観る

こんにちは、東京スタジオのヤマケイです。


7月29日(水)~8月2日(日)で上演していた、『熱海殺人事件~ザ・ロンゲストスプリング~』を配信で観てみました。

アーカイブの残らない、リアルタイム生配信での上演。

劇場で観てもらうお客様は、ソーシャル・ディスタンシングを考慮して抽選で1名のみ(サイトで募集)、役者はPCR検査を受けて問題ないことを確認、出待ちや差し入れ禁止、上演直前まで役者はマスク着用という形での上演でした。


『熱海殺人事件』はもともと、故つかこうへいさんの作品で1973年に初演されました。

木村伝兵衛、水野朋子(ハナ子という名前の頃もあり)、熊田留吉(新任の刑事)、犯人の大山金太郎だけで進行する、4人芝居です。

三流の犯人を一流に仕立て上げ、十三階段へ送り出すという内容ですが、口立てであったことから演じる役者によってその内容は大きく異なり、結論や一部演出は同じであるものの、かなり多くのバリエーションがあります。

今上演すると、差別がどうとかで怒られそうな演出も多々あります。

時代によって変えなくてはならない部分もありますが、軸には人間賛歌があります。

人を愛しているからこそ観察し、役者の人生を通して言葉が熱を帯び、客の胸を打つという作品です。


今回の演出は、武田義晴さんでした。

武田さんは役者もしており、熊田を演じたこともあります。

張った時の声がとてもいい役者さんで、クズの役をやっても人の良さがにじみ出る演技は機会があればぜひ観ていただきたいと思います。


座長である木村伝兵衛部長刑事には、赤塚篤紀さん

最初映像が流れた際に、アイシャドウなのか照明なのか、上まぶたが暗く見えることで「誰?」と思うくらい、妖しい木村伝兵衛になっていました。

北区つかこうへい劇団の際は六期生で同期だったということもありますが、顔見知りの上につかさんの舞台にもよく出演していたため生で観ることに慣れすぎて、映像を通して主役としての顔を観るのが初めてだったというのもあるかもしれません。

人懐っこく愛嬌があり、武田さん同様に人のよさがにじむ演技で、観る人を惹きつけていたのではと思います。


水野朋子婦人警官役には、梨衣名さん

ゲーム業界の方は、「DQⅩ初心者大使(第5期)のひとり」と言った方が理解が早いかもしれません。

水野はおちゃめだったり、烈火のごとく怒り出したり、寂しいという気持ちを持っていても気丈に振る舞ったりと様々な顔を見せる役ですが、かわいらしさや妖艶さを出しつつ、歌の披露もあり、惹きつけられました。

つかさんの作品で女性は紅一点のことが多いですが、梨衣名さんも男性陣の中たったひとり、まっすぐしっかりと立つひとりの人間という素敵な面を魅せてくれました。


熊田役の大野紘幸さんと大山役の布施紀行さんは初めて観た役者さんで、「かわいいな、つかさんの作品で大丈夫か」が感想でした。

なんというか、テレビで「キミかわいいね!」と言われながら甘いマスクでお客さんにキャーキャー言われる存在のように見えたのです。

「芝居はF1レース」と仰ったつかさんの作品に出るということは、役者として成長することはもちろんですが、人相が変わりかねず、ひとつ踏み間違えるととんでもないことになります。

4人しかいないので、緊張感のある中で生きるか死ぬかのようなやりとりをしつつ、役者仲間として共に立ち続けていられる執念や体力が必要となるためです。

しかし、それはすぐ「杞憂!」と言えるほどの気迫に変わっていました。


懐かしく、久々に「生ぬるく生きてないか?」と聞かれるような、刺激的な芝居でした。

つかさん演出の舞台を観ている時は、いつもこの問いを感じていました。

成長しないということは、変わらないとか現状維持ということではなく退化ということでもあります。

コロナ禍で諦めざるを得ないものも多いですが、無理を通すのでもなく、出来ない理由を探すのでもなく、この生配信のように、お客さんを元気にしつつ自分たちも楽しい、そういう舞台やイベントが増えたらいいなと思います。


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ニイザト

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ヤマケイ