欠点を補うツールを見つける
少数色覚プロダクトデザイナーのほうじです。
私が少数色覚だと自覚したのは10歳のときです。90年代後半でした。
まだその時はデザイナーになることを想像もしていませんでしたし、そもそもデザインというジャンルがあることも知りませんでした。なので、少数色覚であることにそこまで危機感を持っていませんでした。
ただ、絵を描くのはその頃から好きでした。絵を描いているときに色を取り違えてしまうのはストレスでした。流石に小学校高学年になる頃には人の肌を緑色で塗ることはなくなっていましたが。
同じ頃、もう一つ自分が夢中になっていたものがありました。PCです。丁度Windows95だ98だと言われていた時でした。
私の通っていた小学校の教頭先生がたまたまPCオタクだったこともあり、当時としては珍しく、クラスの人数分のPCが揃えられている小学校でした。
ただ、PCに興味を持つ生徒はあまりいませんでした。私を含めて学年で5人ぐらいが面白がってよくPC室に行っていたように思います。
教頭先生はそんな私たちに喜んでPCの操作を教えてくれました。
よくわからない英語のような文字をたくさん打ち込みながら、「ここをこうするとね、インターネットからサーバに繋ぎにいってね、ほら今学校のPCからN○Cに侵入してるんだよ!!」と嬉しそうに私に語りかけていたことを思い出します。今考えてもあの先生はヤバイ。
その文字がたくさん並んだソフトを私が使うことはありませんでしたが、PCで絵を描けるということを知り、強い興味を持ちました。
ペンタブレットを使ってPainterや Photoshopというソフトで描かれた絵は、アナログのようなタッチがありながらもデジタルでしか出来ない表現がされており、とても先進的に感じたものです。寺田克也さんの絵とか大好きでよく見てました。
中学に上がってからは、数年間貯めておいたお年玉を使って、自分のPCと一番安いペンタブレットを買いました。家の壁に穴を開けて、LANケーブルを引き回し、自分の部屋からインターネットに繋げるようにもしました。そして自分で描いたイラストをWEB上で公開したりしていました。
そしてふとしたとき、自分が少数色覚だと診断されたことを思い出しました。気軽にネットを使える環境だったということもあり、そもそも色覚異常とはなんぞやということを調べ始めました。
その時、画期的なPCソフトに出会いました。「色々の色」というアプリです。今でもダウンロードできます。
http://www.hikarun.com/w/
これは、マウスカーソルで差したところの色の数値を表示してくれる、いわゆるカラーピッカーアプリです。
この、色を数値に置き換えることができる、という発想は当時の私にとってかなり衝撃でした。
色の認識そのものは、多数色覚の人と少数色覚の人が同じなることはありませんが、数値化してしまえば間違えることはありません。
このアプリのさらに凄いところは、数値から最も近い色の名前を表示してくれる機能があることです。
この機能があることで、少数色覚の人でも自信を持って「この●●色のところがーー」と発言することができます。これはコミュニケーションを取る上で非常に大きなことです。
今では「色彩ヘルパー」という、iOS用の素晴らしいアプリがあります。これはカメラで写したもののを色をリアルタイムで表示してくれます。
https://apps.apple.com/jp/app/%E8%89%B2%E5%BD%A9%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%91%E3%83%BC/id541379161
2000年前後はそもそもカラーピッカーアプリ自体はそこまで多くありませんでしたし、色の名前まで表示するアプリはほとんどなかったのではないかと思います。
中学時代にこの「色々の色」に出会っていたおかげで、「色は目で識別出来なくても、アプリで認識できれば何とかなるんじゃね?」と色に対する安心感が生まれました。
その後、高校生になって進路を決めるとなった時でも、少数色覚であることでネガティブになることはなく、素直に「美大にいこう」と決められました。もし自分が進路を考える前のタイミングで「色々の色」と出会っていなかったら、同じ判断をできていたかわかりません。
今でもカラーピッカーは私にとっては手放せないツールの一つです。私以外の少数色覚のデザイナーにとってもこのアプリに助けられた経験は多いのではないでしょうか?
少数色覚に関わらず、何かしらのハンデが抱えている人は多いと思います。私のように色覚というフィジカルなものもあれば、メンタル面のハンデを持っている人もいます。
どうしても、「欠点がある=そっちは諦める」に結びつけてしまいがちです。しかし、欠点を補完してくれるツールがあれば、これまで諦めていたことを諦める必要がなくなることもあります。
色々の色のホームページで作者の方もそのようなことを開発経緯のページに書かれています。
http://www.hikarun.com/w/wcolorp.htm
自分の特性に基づく欠点を根本から解決することはほぼ不可能だと私は思っていますが、「補完するための工夫をする」という発想で考えるとやれることは色々出てくるかもしれません。
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