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Cの時代 〜働くって何?〜

広告代理店での打ち合わせを終えビルの外へ出ると同時に、ポケットからiPhone8を取り出しアシスタントのサトウに電話した。

呼び出し音、3回。

「・・・はい、サトウです」
「もしもし、今、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」

サトウは、前の会社に居た頃から僕の仕事の大半を手伝ってくれていて、会社を立ち上げるにあたり、「一緒にやりたい」と言ってくれた社員第一号の28歳の女性だ。

社員になってもらうにあたり、給料を払う事ができるのか?とか、もろもろ悩むには悩んだが、彼女と二人三脚でやってきた数年間を振り返ると、将来の不安より社員になってもらう安心感の方が数倍勝っていたので、「はじめは、苦労をかけるかもしれない」ということを了承してもらい、これまでと同じように、一緒に働いてもらうことになった。

「えと、この前、話をしていた労働市場の分析の話・・・そう、今、打ち合わせをしてきて、方向性とか固まったから、明日、打ち合わせとかできる?」
「はい、えっとぉ~明日の14時以降なら大丈夫です。それでもいいですか?」
「うん大丈夫。そしたら、いつもの場所に14時にお願いできる?」
「わかりました、そしたら、学士会館に14時に行きますね」
「よろしく~」
「はい、お疲れさまです」

iPhone8の電話アイコンボタンを押して、電話を切った。
僕らの仕事は、マーケティングリサーチ。主に広告代理店から市場や競合の分析が求められ、それをパワポに落とし込んでレポート化して納品するのが通常の流れだ。その為に、どんなデータや資料を整理して、レポート化していくのか打ち合わせが必要になってくる。サトウがデータや資料を整理し、僕が編集しレポートにまとめていくのが会社を立ち上げる前からやっていた仕事の流れ。仕事に関する打ち合わせは、実質15~30分だが、打ち合わせは平均して3時間以上になる。仕事と関係ない話を永遠として、お互い感じてる事、考えていることを人通り話すのが僕らのやり方だ。サトウは自宅で働いており、会うのは打ち合わせが必要な時、月に2~3回程度。そして、いつも決まって神保町にある学士会館の喫茶店。僕は仕事に対することで彼女を高いレベルで信用し、気づけば、仕事のパートナーとして欠かせない存在になっていた。

赤坂見附駅方面へ歩きながら、僕の頭の中にある労働に関する状況やデータを思い浮かべ整理をし始める。

日本人労働人口減少、外国人・シニア労働者増加、非正規労働者の増加、、、みんな働いてる社会。棺桶型の人口構造。

「働くって何だろうか?」

僕は、20代の頃、人の3倍は働いた。それは、仕事が楽しかったということもあるが、社会のレールから外れた人間が生きるには、それしか方法がなかった。唯一残された「ガムシャラに働く」という方法で生き延びてきた。その体験があるから今日があると思っている。それは古い時代だから出来たことだとも思うが、知識と実力がない分、体験を買うにはそれしかなかった。

「厚労省が掲げる働き方改革って何だろうか?」
「就職協定ってどうなってたっけ?」
「働く・・・幸せになる社会」
「働くことの現状は・・・」

20年前、インドを放浪し就活を放棄した人間が働く事にたいして真面目に考える日がくるとは思ってもみなかった。

「個人が幸せに生き、働く社会」
「みんな違って、みんないい」

人が機械のように扱われ、個人がわがままに感情をむき出しにする社会に、幸せな働き方が描けるのか?

「労働市場、ちゃんと調べよう・・・」

夕方になり飲み屋の看板に電気が付き始める中、少し肌寒さを感じるようになり、駅へと早歩きで向かっていった。

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