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ごまさば【読みサバ】11尾目

東西南北に細長い日本では、いくら狭い国土といっても、北⇔南、東⇔西の間では、「えっ!知らなかった…」という“常識の逆転現象”がしばしば見受けられるものですよね。
サバにもあるんですよ、そんな案件が。

先日、こんなことがありました。
福岡に住む知人のNさんと、web会議で雑談中のこと。
「そういえばサバやしさん、東京でおいしいサバが食べられるお店ってありますか?」
「そうねぇ~たくさんあるといえばあるんだけど。そうだ、東京には珍しい生サバが食える店が西新宿にあって、ゴマサバ丼が旨かったよ」
「ごまさば! 東京でも食べられるんですか(喜)!今度絶対行きます~♪」
「じゃあURL送るね、送信!」
「…え? なんか思ってたごまさばと違うような???」

次第に嚙み合わなくなる会話。
よくよくすり合わせてみると、
つまり、ぼくがおススメしたのは
「ゴマサバ(生)の醤油だれ和え、卵黄のせ丼」(これはこれで非常に旨かった)
Nさんが想定したのは
「サバ(生)のごまだれ和え」という、福岡の郷土料理「ごまさば(胡麻鯖)」のことだったのです。

(注:わかりやすいように、サバの種類としては「ゴマサバ」、
福岡の郷土料理名としては「ごまさば」の表記を用いています)

聞けば、Nさんは数年前に福岡市へ移住し、初めてこの「ごまさば」を食べ、その美味しさに開眼。
以来、県外から友人が遊びに来た際の居酒屋会食では必ず「ごまさば」を強制注文し、布教活動(笑)に勤しんでいるのだとか。
そして、そのときの友人達の反応が、必ずといっていいほど、
「え? ゴマサバって魚の種類のことかと思ってたわ」
「…これって生? 食べても大丈夫なの(怖)?」
このどちらか(もしくは両方)なのだそう。

まず、サバの種類としての「ゴマサバ」は、過去記事「日本の食卓で活躍するサバ三兄弟!」で紹介しておりますのでぜひご一読を。

ゴマサバ

そして、サバの生食問題につきましても、「アニサキスは何がしたいのか?」などですでに記していますが、再度ざっくりご説明すると、太平洋側のサバに比べ、日本海側のサバは、アニサキスの種類の違いから当たりにくい。という特徴があるのです。そのため九州の日本海側(玄界灘)に立地する福岡では、昔からサバの生食が当たり前に行われ、郷土料理としても伝承されているというわけ。「ごまさば」は、サバの刺身(やや薄切り)を醤油・みりん・白すりごまを合わせたたれで和え、わさびorおろし生姜や刻み海苔などをかけたもの。香ばしいごまの風味がたまりません。
お酒のアテにはもちろんのこと、白ご飯にのっけても、熱いだし汁や番茶をかけたお茶漬けも旨いです。

ごまさば

福岡は言わずと知れた美食の街。出張でも観光でも、滞在時間に比して食べたいモノが多すぎて調整が大変なのはサバやしだけではないと思いますが…Nさんに代わって、声を大にしてここは言わせてください。
是非、「ごまさば」もお忘れなく! と。

福岡市内の居酒屋、特に海鮮系に強い店には、高確率で「ごまさば」がメニューにあり、店によってサバ刺身の切り方 、ごまだれの味や濃度、薬味使いなどが違うので、食べ比べるのも一興。一口大に切ったサバを使えば小鉢物にもなるし、ぷりっぷりの厚みのある刺身を使えば存在感ある一品にもなります。
ビジュアル的にはちょっと地味というか、流行りの“映え”要素は薄いのに(すみません!)、今も昔も老若男女問わず人気がある、“生きた郷土料理”なんですね。
それに、サバやしのようにいかにもアウェイな客が「ごまさば」を注文すると、店員さんや隣客からの「おっ、わかってるねぇ^^」てな視線がキモチイイ(かもしれません)!

また、外食だけでなく、福岡のスーパーには生サバの刺身も「ごまさばのたれ」なる商品も並んでおり、家庭でもお手軽に「ごまさば」を食べられるんだそうです。しかし、この「ごまさばのたれ」を土産に買って帰ったとしても、新鮮なサバが入手しにくい土地ではハードルが高いですよね…。

一応、農林水産省の郷土料理のサイトにレシピが載っているので、興味のある方はどうぞ!
※サバはアニサキスがいないか目視でしっかり確認し、さらに一晩冷凍させることを推奨。入手できるならアニサキスがいる可能性の低い養殖サバもおすすめです。

博多の胡麻鯖 福岡県 | うちの郷土料理:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/hakatano_gomasaba_fukuoka.html

出典:農林水産省Webサイト

もっとお手軽に、福岡に行かずとも食べてみたい!という方には、レトルトの「ごまさば」も今では色々売られています。JR博多駅や福岡空港で売られている商品をネット通販でも入手できるものがあるようです。
そんなこんなで、福岡人の「ごまさば愛」からその知名度は各方面に拡大中。「ゴマサバ≠ごまさば」論争?も、そろそろ共存共栄のターンに入っていくのかもしれません!

ちなみに、同じ九州・大分にも、似たような郷土料理があります。
その名は「りゅうきゅう」。こちらはサバだけでなく、アジやタイ、ブリ、イワシなど、その季節季節に近海で獲れる新鮮な魚を使って、醤油・酒・みりん・ごま・生姜で作るたれに漬けこんだ料理。大分では飲食店でも家庭でも容易に食べることができる“ソウルフード”で、福岡の「ごまさば」と同じく、丼やお茶漬けにしても旨いです。

どストレートなネーミングの「ごまさば」と異なり、一風変わった料理名の由来は諸説ありますが、有力といわれているのが、沖縄(琉球)の漁師に作り方を教わったとか、昔はごま和え料理のことを「利休和え」と呼んでいたことから派生した、などです。
いずれにしても、漁師の“まかない飯”が発祥といわれています(大分は「関アジ・関サバ」が有名ですよね)。

りゅうきゅう 大分県 | うちの郷土料理:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/ryukyu_oita.html

出典:農林水産省Webサイト

最近、サバの仕事で日本各地を旅することが増えたサバやしですが、どの土地でも郷土料理というのは伝承されてきただけのことはある、味わい深いものが多いですね。これからも見つけたらご紹介していきたいと思っています。

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