サバの灰干し【読みサバ】5尾目
サバにまつわるあれこれを、読んで味わってみようというこの連載、1尾目では「刺し鯖」という伝統的なサバの干物を紹介しましたが、今回も干物シリーズ(続くのか?)で、「灰干しサバ」です。
といっても、実はこの干物の製法は、干さないんです。「焼きドーナツ(揚げないんかい!)」と同じくらいの衝撃度です。
文字面から、加工段階で灰を使うことは容易に想像がつきますね。でも、この灰が「火山灰」だと知ればそれだけで、なんだかスペシャルな干物(干さないけど)なのでは?と思わされませんか?
通常、魚の干物というのは、魚を開いて塩などの下処理をした後、屋外で日光や風に当てて(天日干し)、水分をとばして作ります。水分があるとそこから腐敗が進んでしまうためです。最近では機械(干物専用の乾燥機)を使って効率的においしく作ることも可能になりましたが、やはり「干す」=水分をとばす という考え方は同じです。
それに対し、灰干しの製法はというと。
下処理の後、布や不織布で包んだ魚を、さらに一定の条件下で水分を通す半透膜という特殊な性質をもつフィルム(セロファンが多い)でラッピング。それを、灰の中に埋めて、低温管理された部屋で十数時間から24時間ほど寝かせるというもの。その過程で水分をとばす(気化)というよりも、浸透圧を利用して脱水が行われます。長時間かけてじっくり「熟成」させる、という表現が近いかもしれません。この方法だと魚の身のたんぱく質が安定し、かつ、空気や紫外線に触れさせないことで酸化が抑えられるため臭みも少なくなり、旨味(アミノ酸)が凝縮されたおいしい干物(干さないけど)に仕上がるというわけです。
ここで使用する灰としてなぜ火山灰が適しているのかといえば、火山灰は「多孔質」で多くの小さな穴が空いていて、遠赤外線の作用に近い効果が得られるのだそう。
こうして加工された灰干しサバの特徴は、適度に水分は抜けているもののふっくらとした食感があり、旨味は凝縮されて強くなり、青魚の臭みが抑えられた絶品といわれています。ただ、一般的な機械干しに比べて手間がかかるため、近年は携わる加工会社が減り、希少な高級干物という扱いになりつつあるようです。
古来、干物といえば日持ちのしない生魚をいかに長く食べられるようにするか、という「保存食」の位置づけで発展してきたわけですが、灰干しはもう保存食というよりも、魚をおいしく食べることに特化して編み出された、干物スキーにとってはまさに夢のハイブリッド干物!といったら言い過ぎでしょうか?
この加工法、実は歴史はわりと浅くて、和歌山県の雑賀崎(さいがさき)で1960年代に、この地が漁の発祥と伝わるサンマから始まったとされています。もっとも江戸時代から徳島県の鳴門で「灰干しワカメ」というのがあり、その製法を応用したものだとか。
今では全国各地の水産加工会社で、サバだけでなくアジやサンマやイワシ、ニシンにホッケといった脂の多い青魚、またタイやサワラなどの白身魚でも作られる高級干物となっています。特に、火山灰といえば…の鹿児島県では「桜島灰干し」のブランドで製造販売している水産会社が多く、通販サイトでも見かけますし、ふるさと納税の返礼品としている自治体もあるようですよ。
食べ方としては、普通に焼いて食べればいいのですが、灰干しは一般的な干物に比べて水分が多く、火の通りが早いです。なるべく短時間で強火、がポイント。
まず皮を下にして焼き、パリッと焦げ目がついたらひっくり返して全体に火を通します。(グリルなら先に油を塗っておく、フライパンならクッキングシートみたいなのを敷いて焼くと仕上がりもきれいです)
普通の干物より水分が残ってふっくらしているから、ほぐしてサバフレークにしてもおいしいですよ。熱いごはんにのせて、しょうゆをひと回し、お好みで七味唐辛子や柚子胡椒を添えれば何杯でもいけちゃいます。
灰干しサバの手作りサバフレーク、このプチ贅沢!
お試しあれ。
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