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鯖寿司 【読みサバ】7尾目

お正月気分もすっかり抜け、ますます寒さが厳しくなってきましたね。
先日、新春1回目として「サバ旅@小浜」をアップし、鯖街道の起点である福井県小浜市のサバ朝活を紹介させていただきました。
で、今回はその終点、京都が発祥とも言われる「鯖寿司」について、考察してみようと思います。

鯖寿司の画像
鯖寿司

鯖寿司は、ご存知のように酢飯に鯖が載った寿司。京都のように半身丸ごとで棒状にまとめた酢飯をくるんだものは、棒寿司と呼ばれます。ほかにも、押し寿司では大阪のバッテラ、奈良の名物である柿の葉寿司なんかも鯖寿司の仲間たち。高知の鯖寿司は背開きのサバを一尾丸ごと使った姿寿司です。

バッテラの画像
バッテラ
柿の葉寿司の画像
柿の葉寿司

また、同じ棒寿司でも、鯖街道の起点で塩漬けにして運んだ京都では、しめ鯖なのに対し、鯖街道起点の若狭地方ではその食文化をもとにした焼きサバを使うものも。サバ旅@小浜で紹介した小浜市が本社の「若廣」さんの焼き鯖寿司がその典型でしょう。羽田空港の空弁として脚光を浴びたので、すっかり関東の人々にも浸透しました。
ほかにも、サバのへしこを載せたへしこ寿司、珍味どころでは、サバのなれ寿司なんてものも。なれ寿司というとフナを使った滋賀の郷土料理として有名ですが、サバでもできるんですね。

サバは昔から日本近海でよく獲れ、庶民にも馴染みの魚でしたから、地域によってさまざまに発展し、郷土料理として伝承されてきました。でも、全国を俯瞰して見ると圧倒的に西日本が多いんです。
それも、京都、奈良をはじめとして、岡山県の新見など、海から遠く離れた地方で鯖寿司が伝承されていることが珍しくないのです。
これは古来、有名な小浜-京都ルート以外にも「鯖街道」が各地にあったため。たとえば、奈良の柿の葉寿司にサバを用いるのは「紀州鯖街道」の影響と言われています。紀伊半島沖の熊野灘で獲れたサバを北上して運ぶルートです。

京都の鯖寿司に話を戻しましょう。
京都では、昔からお祭りや慶事など人が集まる際の行事食として、鯖寿司が食べられてきました。
特に、“京の三大祭り”と名高い5月の葵祭、7月の祇園祭、10月の時代祭りの祝いの席に、鯖寿司は欠かせないご馳走として、今も受け継いでいる家が多いとのこと。昔は手づくりする家庭も多かったようです。

「鯖街道の終点」は、京都市街の中心部にあります。出町柳という場所で、西側には御所、東側には下鴨神社があります。
ここは北から流れてきた賀茂川と高野川が合流して鴨川となる地点で、
その通称“鴨川デルタ”をつらぬく通りが若狭街道。鴨川デルタの西側に架かる出町橋の西詰に「鯖街道口」と刻まれた石票があります。2019年に出町商店街振興組合が建てた新しいものですが、鯖街道の歴史を巡りたい旅人にはわかりやすくていいですね。

出町橋の西詰にある「鯖街道口」の画像
出町橋の西詰にある「鯖街道口」

実際には若狭と京都をつなぐ鯖街道は3つのルートがありました。そのうちで最も往来が多かったのがこの若狭街道ルートで、「京は遠ても十八里」と伝わるとおり換算すれば72km。道中、いくつもの峠越えがある山道を、鯖が傷まないうちにと休憩もそこそこに歩き通した鯖運搬人は、無事にこの橋詰に到着すると心底ホッとしたことでしょう。
そして、海産物が貴重だった京都の人たちは、苦労して運ばれたサバを1尾でも無駄にせず美味しく頂こうとしたに違いありません。鯖寿司も、そんな若狭と京都の“人の歴史”が詰まった食べ物に思えます。

ところで、京都の棒鯖寿司や大阪のバッテラにはよく、鯖の上に薄~い緑色のシートのような昆布が貼りついていますね。これは白板昆布といって、おぼろ昆布を削るとき、限界まで削った後に残る部分。ということは非常に少ししかできない部分であるため、鯖寿司屋さんも近年は特に入手が難しくなっているそうです。

白板昆布をのせた鯖寿司の画像
白板昆布をのせた鯖寿司

この白板昆布は、昆布の出汁(だし)の風味を鯖に移して風味をアップしてくれるのはもちろん、鯖の表面が乾燥するのも防いでくれるという優れモノ。紙かと思って剥がして捨ててた人は反省しましょう(笑)。
ちなみに昆布は、江戸時代に北海道などで獲れたものが北前船の寄港地だった敦賀から京都や大阪に運ばれました。その街道は今、「昆布ロード」と呼ばれています。若狭と京都の密接な交流が、鯖寿司のみならず日本の食文化に与えた影響はかくも大きいのです。

さて、ここまで知ったら、ぜひとも京都で本場の鯖寿司を味わってみたくなりませんか?
鯖の棒寿司を最初に売り出したのは祇園の「いづう」だというのが定説のようです。創業はなんと天明元年(1781年)! さ、さすが京都や…(100年ほどでは老舗と認定されない)。
サイトを見ると…お値段の方もさすが、という感じ。ここの鯖寿司は祭りや慶事などハレの日に気張って(頑張って、の京都弁)注文して、家族や親戚などと一緒に楽しむというのが、京都人の嗜みなのかもしれません。
もちろん、市内には鯖寿司の名店がたくさんありますよ。
せっかくなので、鯖街道の終点近くで鯖寿司を味わってみたい!という人は、出町桝形(ますがた)商店街の中にある「満寿形屋(ますがたや)」なんかどうでしょう。
商店街もこのお店も地元民御用達~大衆食堂~といった趣で、鯖寿司ときつねうどんのセットなど、気取らない日常に溶け込んだ鯖寿司を体験することができます。

さて、サバやしが実際に京都で初鯖寿司を味わったのは、2015年のこと。このときは鯖寿司が目的ではなかったのですが、ふと食べてみたくなり、繁華街(四条河原町)あたりで見つけた「きし鮓(ずし)」に入店。敷居の高くない気軽な雰囲気で、鯖寿司もリーズナブルで非常に旨かったです。後で調べたら大正時代から100年以上続く老舗とのこと。サバニストの嗅覚に間違いはなかった!
気をよくして、東京に買って帰ろうと“京の台所”錦市場へ。ここでは事前のリサーチで「さか井」に狙いをつけていたのですが休業日で、近くの「畠中商店」という魚屋さんで購入しました。これも旨かった~。

畠中商店の鯖寿司の画像
畠中商店の鯖寿司

当然ながら各店によって鯖のしめ具合や酢飯、味や食感のまとめ方などは異なるので、今度訪れたらもっと色々食べ比べてみたいと思います。
過去の「鯖サミット」でも、各地の特色ある鯖寿司を販売してもらい、飛ぶように売れていました。美味しいのはもちろん、食べやすくて、お腹も満足の鯖寿司は、昔も今も日本人に大人気。ソウルフードの一つといえるのではないでしょうか。今年は鯖サミットを開催したいと準備していますので、ご来場の際は、鯖寿司にも注目してみてくださいね!


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