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広告の見巧者・向井 敏 ③ 〜3分で読めるブランドのチカラ (68)

○ 1962年に登場した15秒TVCMスポット枠
○ 翌年には5秒スポット枠も認められ短尺CM戦国時代に
○ 5秒ミニCM時代に対応するための「キーワード」一発勝負CM手法
○ 代表的CM「なんである、アイデアル」「かぁちゃん、いっぱいやっか」
○ TBSのゴールデンタイム5秒スポット枠廃止が引き金を引いた「キーワード」時代の終焉


広告会議で日本を訪れるアメリカの広告人たちは、商売熱心なのか、物見高いのか、この国のCMがやたらと気になるらしくて、実に熱心にテレビを見る。彼らにその感想をたずねてみたまえ。まず例外なく、CM秒数の短さを言うだろう。15秒がやたらと多いが、あんなミニ・スポットで、どうして商品について必要なだけのメッセージを伝ええることができるのか、そう言って肩をすくめて見せるだろう。皮肉と持つかず、不審ともつかず。


 いきなりですが、向井 敏 氏の「紋章だけの王国」第3章 5秒のいのち〜ミニ・コマーシャルの発想法〜の冒頭を引用しました。

 以前書いた日本デザインセンターの創設メンバーであるクリエイティブ・ディレクター梶 祐輔 氏の項を思い出します。

 15秒スポットという端的に短い時間の制約を受けて、日本の広告は迷走してしまったと嘆く梶さん曰く※。


日本のコマーシャルに詳しい外国人クリエイターの友人は、我が国のTVCMの構造を「タレント、そしてトツゼン、ショウヒン」と言って冷やかす・・・

 向井さんと同じ指摘ですね。

 でも、向井さんがここで「ミニ・コマーシャル」と言って指してるのは15秒スポットではなく、書いてあるように5秒スポットなんですね。5秒です!

 初期のTVCMは60秒、30秒が中心で、15秒は傍流にしか過ぎなかったのですが、1961年秋にステーションブレイクのTVスポットCMの単位が30秒から15秒に短縮されたことをきっかけに15秒スポットが一躍メジャーなものになりました。

 翌年1962年には、なんと5秒TVスポット枠まで認められることになったんですね。これは多分TV局の増収目的のことであったはずだと、向井さんは書いています。

 そもそもネットワーク局の切り替えのための時間を切り売りしたのがステーションブレイク枠です。5秒枠も売り上げ最大化計画であったとしてもなんの不思議もありません。

 さて、話は5秒スポット枠でしたね。

「ノンモン」って言葉は聞いたことありますか?

 すべてのTVCMにはノンモンと言われる無音の部分を作る必要があります。これは、CMとCMが繋がらないように、区別がつくように区切りをつけるために、画像は出ていてもサウンドドラックに無音部分を設けたものです。ノンモジュレーション(Non-modulation)の略なんです。

 で、この無音の部分というのはCMの前後に0.5秒ずつ、計1秒つくることになっています。CMの長さにかかわらずこれは変わりません。

 CM撮影に使うフィルムは35ミリで、これを1秒30コマ(30フレーム)で回します。0.5秒ずつ、つまり15コマずつ画像はあっても無音のコマを設定することが必要なんです。

 60秒の長尺CMでもノンモンは0.5秒ずつ計1秒、30秒でも同じ1秒を無音にします。

 てことはですよ、5秒CMに許された有音部分はたった4秒※しかないんですよね。これでは余計に商品名言うのが精一杯、長いと商品名ですら入りません。

 許されたこの短尺秒数の中では商品の特徴など伝えらるわけもありません。商品名を繰り返しても効果は見込めません。というか繰り返すこともできず、下手したら時間内に言い切れません。😀

 中国の人なら誰でも知っている成句に「上有政策、下有対策」というのがあります。上(政府)に政策あれば、下(民)に対策あり、という意味なんです。強かなんですよね。国が無理言っても、なんとか工夫してどうにかする!ってことです。

 で、5秒CMが急増する中、広告主と広告代理店制作者はこの短秒数の制限内で人を惹きつけるための手を捻り出しました。

 それが「キー・ワード」一本釣り手法です。

 キー・ワードと表現したのは向井さんです。これって、現代的にいうと「キャッチ・フレーズ」になると思います。
一本釣り手法は、私の命名。😀

 キャッチ・フレーズはCMの中で商品の特徴・セールスポイントを短いフレーズで表現する大事な要素の一つですが、5秒CMでは(正確には当時音声3.5秒CMでしたかね)、要素のひとつどころじゃなくて、それがすべてを占めます。

 どれだけキャッチーなフックのある言葉を編み出すか、これに全力集中の時代がきます。

 そのようなわけで当時,「キャッチコピー・オンリー」5秒CMが雨後の筍の様に濫造されたようですが、個人的に私がかろうじて記憶しているCMは2本しかありません。

 「無責任男」の植木等が「なんである、アイデアル」と一言言うアイデアル洋傘のCM。タイトルの写真に貼り付けたやつです。

 もう一本は喜劇俳優の伴淳三郎が「かあちゃん、一杯やっか」と一言言う伏見の日本酒「神聖」のCM。

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 植木等も伴淳三郎もホントに一言だけです。5秒CMですから。😀

 2本しか記憶にないと書きましたが、実はそれ以外にもう1本あって、これはCMというより、一社提供番組の冒頭でスポンサーメッセージを入れてきた、昭和の大ヒット番組の一つ、「てなもんや三度笠」なんです。

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 「あんかけの時次郎」※演ずる藤田まことが発する「おれがこんなに強いのも、あたり前田のクラッカー」のCMメッセージ。ちょうど5秒くらいですね。番組の冒頭に必ず毎回工夫を凝らした絡みがあってから本編に入っていきます。この頃のスポンサー対応の凄さには目を見張らされるものがあります。

 さて、多くの5秒CMが、藤田まことの例を引くまでもなく、タレントに短い惹句を言わせるパターンでした。タレントプラス惹句の組み合わせに効果を期待した…これって今と変わりない様な気もしますが。😁

 ともあれ、向井さんが「キー・ワードの時代」と名付けた時期は、1965年末にTBSがAタイム枠(午後7〜9時)の5秒スポット枠を廃止したことをきっかけに、急に衰退することになります。

 向井さん年表によると1963〜1965、足掛け3年の命でした。 

 そして業界はより長い😂15秒スポット万能の時代に入っていきますが、先述した「タレント+キャッチフレーズ」一本釣りの鉄板パターンは、その後も日本のTVCMの通奏低音として生き延びていきます。



最後に。

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※脚注
○ 梶さん曰く・・・著書「広告の迷走」より
○ 4秒・・・「紋章の王国」で向井さんはノンモンが1.5秒あるので、5秒CMの有音部分は3.5秒しかない、と書いています。この当時はノンモンが今より更に長かったのでしょう。
○ (株)アイデアル・・・東京都台東区にあった1936年創業の洋傘メーカー。2006年に倒産。
○ あんかけの時次郎・・・1928年に長谷川伸が書いた戯曲で何度も映画化された任侠物の名作「沓掛(くつかけ)時次郎」をもじった喜劇中の役名。



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