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広告の見巧者・向井 敏 ④ ~ 3分で読めるブランドのチカラ (69)

◯ 「フィーリング」CMの時代
◯  東レの「イエイエ」CMが放ったインパクト
◯  短尺CM時代を嘲笑う?長尺60秒のイメージ訴求
◯  鮮烈なCM音楽は「新鋭作曲家」の小林亜星


 向井 敏さんが著書「紋章だけの王国」でTVCMが初めて日本に登場してからの変遷を次の三期に仕分けました。
① 「コマーシャル・ソング」(1955年〜62年)
② 「キー・ワード」(1963年〜65年)
③ 「フィーリング」(1967年以降)

 前々回其の67で「コマーシャル・ソング」の時代、前回其の68では「キー・ワード」の時代と考え進めてきましたが、本稿ではいよいよ最後となる「フィーリング」期について考えてみたいと思います。氏がこの著作を上梓したのは1977年初なので、1967〜76年の9年の期間のことと理解して良いでしょう。

 しかし、「フィーリング」の時代とは何でしょう、いったい。

 氏の評論を見て、今から振り返ってみると「フィーリング」とは「イメージ」に置き換え、解釈するとちょうど良いかと思います。

 さて、氏が「フィーリング」コマーシャル(イメージCM)と表現したもの、それは何なんでしょうか。

 代表的なTVCMとして東レ※の「イエイエ」のコマーシャルが紹介されています。この項のタイトルは

4章「ザッツ・エンターテインメント」イエイエの衝撃


 氏が「衝撃」と謳った1967年にオンエアされたこのコマーシャル、それまでの日本にはなかった種類のインパクトがありました。昭和世代、特に戦後生まれの団塊の世代の人々は鮮烈な印象とともに記憶しているかと思います。

 どんなコマーシャルだったんでしょうか。
YouTubeで「東レ イエイエ」と調べてみてください。すぐに個性的なポップなCMが出てきます。


 これはボンネルという合成繊維を使ったニット服の広告なんですが、当時のポップアート感をフィーチャーしたイラストと実写の組み合わせで、独特のスピード感がありました。イエイエというのは、英語でのYeah Yeahでしょう。でもカタカナでイエイエと表現しているのがミソですね。

 このCMは1967年夏にNET(現テレビ朝日)の看板番組だった日曜洋画劇場に60秒の長尺で放送されました。15秒から5秒CMへと猛進した、向井さんが「キー・ワード」期と言った短尺時代を嘲笑うかのようなCMでした。

 この耳について離れないCM音楽を作曲したのは当時は新鋭だった小林亜星さん、歌は個性派歌手の朱里エイコさん。ポップ感を打ち出したイラストは小林亜星さんの実妹の川村ゆきえさんで、制作を電通の今村 昭、演出を岩本力...ピッカピカの才能人たちが手掛けていたんですね。

 このCMはその年1967年のACC CMフェスティバルのグランプリを取ることになります。

 放送回数は多くなかったのにも関わらず、CMの斬新さは耳目を集め、東レのニット・セーターとスカートは売り場に出るとすぐに売り切れてしまったそうです。


 このインパクトを朝日新聞が以下のように記事にしたと、向井さんは書いています。

 ちょっと長くなりますが、要約引用します。


イエイエというCM知ってますかと、4、5人のサラリーマンに聞いたところ、「知ってる知ってる。スポットでよく見るよ。」と答えた。広告界の話題をさらったこのレナウンのCMが流されたのは日曜洋画劇場で三十回だけ、スポットは打っていない。

なのに皆このCMをたくさん見た気になっているのは、ソバカス娘のイラストが実写のファッションモデルたちがお互いの肘をタッチし合うシーンへと変わり、広げた英字新聞が現れるとイエイエの吹き出し、逆立ちした軍艦からもイエイエの吹き出し…と、パッパと変わる無意味なシーンの連続に、ビートのきいたリズム。いかにも現代的な清新さを感じさせ、CMの持つ押しつけがましさ、いやらしさを捨て去っていて楽しい。





「イエイエ以後」と業界では言われたほど、このCMが業界にもたらしたインパクトは大きかったようです。

 向井さんは、この流れで作られたCMの代表的なものとして、其の44の回でご紹介した藤岡和賀夫さんがプロデュースした富士ゼロックスの「モーレツからビューティフルへ」キャンペーンを挙げてい、これをきっかけに精神的ゆとりをテーマとしたイメージCMの時代が始まったと見立てています。

 実際にはその頃は高度成長が加速した「モーレツ礼賛」の時代であったのだが、その成長でもたらされた暮らし向きの高度化、安定をCMの作り手は強引に「精神的なゆとり」に置き換えた、と氏は書いています。

 生意気ですが、この点では私は異論があります。向井さんの見立てのように「強引に置き換えた」のではなく、高度成長モーレツ時代、豊かになる暮らしには満足しつつも、疲れが蓄積していった人々は「ゆとり」にも実は憧れていたというアンビバレントな気持ちに肉薄したのが、「モーレツからビューティフル」であり、「Discover Japan」だったのだ、と私は考えます。

 しかし、時代というのはそう簡単に切り分けられるものではないんですね。向井さんが「フィーリング」の時代と称した、「イエイエ」に代表されるイメージ訴求のCMの隆盛と並行して、商品の特性特徴を見事に表現する、いわばU.S.P.アプローチの秀逸なCM群があったと氏は書いています。その代表作としてセメダインのCMをあげています。

 それについては、次回に。



最後に。

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※脚注
◯ 東レ⋯ 合成繊維を中核事業とした大手化学企業。1926年創業。旧社名東洋レーヨン。三井グループの中核企業の一社。



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