二十二歳の時だったと思いますが、私はひと冬を手袋なしですごしたことがあります。
その頃、私は四谷にある教育映画をつくる会社につとめていました。月給は高いとはいえませんが、身のまわりを整えるくらいのことは出来た筈です。にもかかわらず、手袋をしなかったのは、気に入ったのが見つからなかったためでした。
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今ふりかえってみて、一体どんな手袋が欲しくてあんなやせ我慢をしていたのか全く思い出せないのがおかしいのですが、とにかく気に入らないものをはめるくらいなら、はめないほうが気持がいい、と考えていたようです。