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【部下を推す話】⑥ 羊と歌とプロポーズと。《前編》

「ねえ、羊、行かない?」

最初に誘った時、声を掛けられたAはキョトンとしていた。

「え? 見る方ですか??

決して牧場に行こうと誘った訳ではない。
わたしとBがどうしても羊を食べたくなってしまったのである。


あのやり取りから早くも半年が経過していた。
この度やっと念願を叶え、仕事帰りに部下Aと部下Bと3人でジンギスカンに行ってくることができた。

お店はある時偶然見つけたもので、コスパがとても良く何より美味しい。
誰かに教えたいけど、誰にも教えたくない。
そんな相反する感情を抱くくらい気に入っているお店で、いつか部下たちを連れて行きたいと思っていた場所だ。

わたしの大好きなお店で、推したちに囲まれて、美味しいラム肉に舌鼓を打つーー我ながら最高過ぎる計画である。

ただ、お店は車でないと行き辛い場所にあった。わたしとBは車で移動しているが、Aは車ではない。
つまり、Aを自分の車に乗せる可能性がある。
ということで、一週間前から車の掃除をしていた。わたし一人なら別に汚くても良いが、流石にそんなところに可愛い部下は乗せられない。
お陰でいつになく車は綺麗になった。まったくもって推しの力は偉大である。

尚、目論見通りAを乗せての移動となった為、炎天下の中日焼けしながら2時間掃除したわたしの苦労は無事報われたことを記録しておく。


色々な苦労が報われ、そして可愛い推したちに囲まれながら食べた羊肉はとても美味しかった。
同じメンバーでは2回目の食事会である。1回目よりAとBが砕けて色々話してくれるのがとても嬉しい。
これならこの後の二次会もうまくいくかも知れない。手元のウーロン茶を飲み干しながらわたしは目を細めた。

(中編につづく)



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