Catonsville

Catonsville

最近の記事

『ひとりでいく』の多重露光

『ひとりでいく』は、鎌倉に住む関根愛が、仕事やワーケーションで訪れた遠方の街の人、食、景色との出合い、再会の中で見つけた気づき、家族と自身の過去の記憶に思いを巡らせ、著者の死生観にまで迫る詩的なエッセイだ。 https://megumisekine.base.shop/items/86386722 ジャンル横断的な読み物だが、まず人々の温度が、手作りの食を通して伝わってくるのが心地よい。尾道の年配の女性が「醤油めしは、ほんとうは釜で炊く。炊き上がったあと、醤油を打つ」と人生

    • 『秋刀魚の味』の通奏低音

      小津安二郎監督の遺作となった『秋刀魚の味』(1962)は、初老の男が旧友や恩師との交流を経て、自分の年頃の娘を嫁に出そうと決心する話。 この映画の中で特に秀逸な瞬間は、初老の平山(笠智衆)が、亡妻の面影をみとめる若いマダム(岸田今日子)のバーで呑む2つのシーンにある。1つ目は、戦時中に艦長だった平山と、当時の部下で一等兵だった男との会話。 坂本「敗けたからこそね、今の若い奴等、向うの真似しやがって、レコードかけてケツ振って踊ってますけどね、これが勝っててごらんなさい、勝っ

    『ひとりでいく』の多重露光