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信頼関係は出来上がるものであり、つくるものではない。

これまで、いろんなところで聞いてきたこのフレーズですが、最近、改めて信頼関係は生産性のドライバーであると言うことを実感する出来事がありました。あったと言っても、昨日今日に起きたのではなく、じわじわと変わってきていたことを、振り返ってみたら、大きく変わったなぁと気づいたという感じです。

時を遡ること数年、初めて日本人ではない上司の元で働き始めることになりました。といっても、日本資本以外の会社に転職したわけではありません。私は日本の会社に所属をしており、シンガポールに新組織を立ちあげることになったことから、赴任することになりました。従来の延長戦で組織を作りたくなかったこともあり、過去の前例を廃し、新しい組織に最適な施策を実行できる方を採用する事になりました。そのため、部門の責任者もスタッフも所謂マルチナショナルカンパニーの経験者を採用することになりました。各部門の意思決定者までローカルにすると言うのは日本の会社の海外法人としては珍しい方ではないかと思います。地の利のない場所で新しいメンバーをゼロから揃えていくことはチャレンジングで、更にその過程で、自分のレポーティングマネージャーとなる方をも採用するという機会をも得ることができました。かなりレアです。

少し脱線しますが、採用の際にショックだったことがあります。マルチナショナルカンパニーから人材がほしいのに、「日本本社の会社である」というだけで、面接にも来てくれないのです。理由は、日本人マネジメントへのネガティブな印象でした。例えば、意思決定に時間がかかる。議論しない。Leadership Teamが日本人ばかり。グラスシーリングがある、結局TOPになれない。そもそも報酬が低いので選択肢に入らない。これは完全に個人の印象によりますが、高圧的な印象…などなど。シンガポールで候補者が持つ日系企業のイメージはこんなでした。そのため、所謂日系企業ではない、新しい組織を作るので期待してほしいということを丁寧に説明しなくていはなりませんでした。そんなにも日本企業のプレゼンスが低いのかと愕然をしたのを覚えています。

さて、話を元に戻します。
そんな環境に、私は英語が申し訳ない程度にしか話せない状態でやって来ました。やはり、新しい組織に入社してきたメンバーは、かなり考え方や物事の進め方が違うと感じることが多く、まるで別の会社で働いているかのような感覚でした。これは良いことばかりではありませんでしたが、良いことのほうが多かった印象です。特にHRの領域について言うと、私はこれまで日本を含め複数の国で仕事をしてきましたが、そもそもの人事の存在意義や考え方を含めて、いろんなアプローチが異なるということに気づきました。この話は別で詳しく書くことにします。

そんな多様な人材が混在する環境の中で、言語バリアもあり、英語が流暢な人であっても意思疎通にも時間がかかったり、誤解やミスコミュニケーションが多発したりという状況で、生産性が高いとは言えない状況がしばらく続きました。
前述の私のレポーティングマネージャーは、非日本語話者。日本企業の慣習、文化、組織の考え方はほど予備知識ゼロです。常に原理原則を意識し、極めて合理的な意思決定をしようとするのですが、当然ながらハレーションも起きます。背景、コンテキストを伝えながらお互いを尊重しながら、軌道修正を図ってきた数年でした。

その甲斐あってか、昨年くらいから、HRの組織では、いろんな物事が非常にスムーズに進められうようになってきました。メンバーの考え方も少しづつ変わったということもあるのでしょうけれど、多様な相互の考え方を理解して、別の新しいものを探るということになれてきたというか、そんな感じです。

そしてそのベースとなったのは、自由に議論できる環境。そして、その背後にあるものは、信頼関係でした。信頼関係が構築出来たと感じた記憶はありませんが、とにかく議論の中ではすべてをテーブルにのせて、フラットに話し合いで決める。それが普通にできるようになったというだけです。そして、いろんなアイデアがミックスされ、これまで生み出せなかったような新しい施策なども生まれるようになってきました。これがよく言われる心理的な安全性があるという状態でしょう。

これまで私も「信頼関係を築くことが大切だ」などとよく言っていましたが、自らが数年かけて歩んだ過程を振り返ってみると、信頼関係を作ろうとして作ったのではなく、目の前の仕事に正直に向き合い、打ち明け、議論しつくし物事を進める。それをひたすら繰り返していく中で培われるものだと改めて実感しました。

今後、新入社員と話をする機会があれば、「信頼関係を築こう!」などと言うのはやめようと誓った日曜日の夜でした。


2020年、オンラインで沢山の方にお会いし、たくさんの価値観に触れ、自分の中の考え方が揺れ動いていることに気づきました。この瞬間に、感じたことを言葉で表現してしてみる事にしました。 子育ての事、教育こと、人に関すること、外国人の上司と働くと言うこと。つれづれなるままに。