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布教専用プレイリストを作ってみた件


動機 -「好き」の良さを伝えるには-


私は洋楽が好きで、60年代から90年代にかけてのロック音楽やダンス音楽を特に好んで普段から聞いている。

一方で私の友人の中にはJ-POPやボカロが好きという人、ラブライブが好きという人、シティポップやユーロビートが好きという人もいる。


私は割とどんな音楽に対しても、その音楽の良さを見つけて楽しもうとする聞き方をするタイプなので、音楽に限らず趣味の異なる人から
この作品のこういうところが好き、というような話を聞くことが好きだ。

この曲いいから聞いてみ?という言い方をされるより
この曲を聴け!こういうところが神がかってて俺は好きだ!
と半強制的に聞かされた方が説得力があっていいとさえも思う。


と、いうことは、だ。
こっちからも同様の積極的布教を行えば
私が好きな音楽の良さも伝えることができるのではないか?
という(一方通行の)考えがここに発生する。

なにせ洋楽ともなると、何かしら聞いたことはあるにしても
まず興味がないという人が少なくない。

思うに現代の日本人はリリックやメロディーに縛られ過ぎだし、
洋楽にしたってジャンルを細分して格式張らせすぎなのだ。

先にも述べた通り、この作品のこういうところが好き!というのさえあればルーツを知っていようがいまいが、音楽的な正確さに欠いたサウンドの分析だろうが、それはもう立派な楽しみ方の一つだと思うからである


また、私の感覚に基づく限りでは、多くの洋楽人気アーティストには
前提知識を必要とせず十分にいいと感じられる楽曲が存在している。
そういった作品の良さが十分に伝わっていないのはとてももったいない。

先入観を排除してこうした作品を聴いてもらい、私の好きな音楽の良さを知ってもらおう(もちろんそれを理解するか、好きになるかは聞かされた人次第だ)、という目的でピックアップしたプレイリストを(思いつきと勢いだけで)作成したので、ここに紹介したい。

もちろん、趣味の一方的押し付けは絶対に禁物だ。
相手を選び、よく相談の上、布教に当たるように。



内容紹介 -どう伝えるか-


Joy Division "Passover"

ポストパンク、ゴシックの金字塔Joy Divisionから一曲目。

とにかくこの曲は詩が秀逸で、難解だが静謐なサウンドをバックグラウンドに多義性をはらんだ詩の内面世界が屹立しているのが素晴らしい。

タイトルのPassoverとはユダヤ教の過越祭のことを示し、旧訳聖書由来のモチーフがいくつか登場するので、それらを理解することが詩を味わう助けになるだろう。繰り返し聞き、時間をかけて読み解いてくといい。


New Order "Ceremony"

Joy Divisionからの二曲目は彼ら最後の作品にしてNew Orderとしての出発点ともなった重要なこの曲。

一見すると陰鬱な内容ながらどこかエネルギッシュで、生への真摯さを感じさせるようなJoy Division音楽の類型ではあるが、詩には自暴自棄に至ったとも取れるようなイアンの辛苦が吐露されているようで痛々しくもある。

New Orderとして再出発したメンバーがこの曲を最初のリリースに選んだのも納得の、ポストパンク時代屈指の名曲だ。
Joy Divisionのエッセンスが詰まった布教用にも最適の音楽。


New Order "Your Silent Face"

New Orderから事実上の一曲目。
非常に選曲に迷ったグループのひとつだ。

New Orderの音楽はギターロックからシンセを多用したポップ、打ち込みやドラムマシーンを使ったダンスロックまで幅広く、その中でもこれはリズムセクションは打ち込みを中心に、間奏では美しいシンセと高音ベースがメロディーを織りなす典型的なNew Order的ポップ作品。

”Temptation”や”Age of Consent”と並ぶ初期New Orderの代表作。
ポップな曲調で以降の数作品よりむしろ聞きやすいのでお勧めだ。


New Order "Bizarre Love Triangle"

New Orderから二曲目はダンスロックの名曲をセレクト。
Shep Pettiboneによるリミックスも素晴らしいが、ベースがほぼ完全に取り除かれてしまっているのが残念。アルバム版が個人的にはベスト。

ダンサブルながらどこか物憂げな曲調、サビ前の印象的なインスト、しっかり脚韻を踏んだ詩が作り出すリズム感など構成に長けており、New Orderのダンス、エレクトロ作品入門として聴きやすい。


The Cure "Pictures of You"

ゴスのカリスマ的バンドThe Cureから一曲。

とにかく美しい。
この作品に関してはこの一言に尽きるだろう。ゴス的な美だけではなくロマン的な美も内包している(ゴートとローマの好対照ともいえるだろうか)詩もベースが重ね掛けされたメロディーも素晴らしい。

この曲を歌うロバート・スミス自身は一人の女性と長く付き合ってきているだけに、詩にはむしろリアリティのある不安が反映されているようで、聴くものの心を掴み、涙を流させるのかもしれない。


The Stone Roses "Waterfall"

美的センスにずば抜けたStone Rosesからも一曲。
個人的にファーストがとても好きで一曲選ぶのに苦労した。

サイケデリックも感じさせる独特な美的世界観をサウンドで表現したようなこの作品は中でも私のお気に入りで、聴いていて気持ち良い。
同アルバムの他の収録曲もどれもおすすめだ。


The Clash "Train in Vain"

UKパンクの代表的グループThe Clashより。

作品数が多く曲単位で語ることが難しいので、ここでは敢えてシンプルに好きな曲をチョイス。それだって選ぶのは難しいのだが…
ポップな曲調なので普段洋楽聞かない人でも親しみやすいと思う。


The Stranglers ”The Last Men on the Moon”

こちらもUKパンク出身のThe Stranglers

パンク以来の長いキャリアを持つグループで、ジャン・ジャック・バーネルの力強いベースラインと、縦横無尽に駆け回るキーボードが生み出す無二のサウンドが刺さる人には刺さる

本作品は最新作収録の新しい曲でメジャーではないが、コンセプトとサウンドが分かりやすく一致していて、最新ではあるが現代風味過ぎず、伝統的なStranglersもしっかりと感じられるとてもいい曲だ。

この曲が持つ科学的な批判精神は旧メンバーのヒュー・コーンウェルに負う所も大きく、それが好きな人は古い作品もハマると思う。


The Cars "Since You're Gone"

ボストン出身のニューウェーヴの旗手、The Carsからも一曲。
正直チョイスは一番悩んだと言ってもいい。

独特なセンスを持ったグループで、感動的なラブソングと見せかけて強烈な皮肉を加えたり、この作品のように自由なヴォーカルも多い一方で、
シンセサイザーや時にエレクトロニカを織り交ぜたサウンドは普遍的にいいものばかりなので、素直に音楽そのものを楽しむこともできる。


The Velvet Underground "Venus in Furs"

その影響力から様々な評論家によって語り尽くされてきたニューヨークの伝説的バンド、Velvet Undergroundから一曲目。

曲自体の解説はもはやほかのサイトに譲るが、ヴィオラのドローン、際どい詩の主題とクオリティの高さなどとヴェルヴェッツのアーティスティックな面が凝縮された名曲で、それでいて大衆性を失わないのがすごい。


The Velvet Underground "What Goes On"

ヴェルヴェッツから二曲目。
アヴァンギャルドやパンキッシュなイメージのあるグループだが、実際には特にジョン・ケイル脱退後はルー・リードを中心に、クオリティの高い大衆的なロックンロールを展開していた。

名曲”Sweet Jane”など収録の4thアルバムもいいが、ウォーホルのファクトリー時代やケイル在籍時の芸術的な方向性と、ルーが元来志向するロックンロールの方向性が交錯する3rdが個人的には好き。

この曲はヴェルヴェッツのロックンロールのカッコよさと芸術性双方を堪能できる名作。ライブでの演奏もタイトでなかなかだ。


Lou Reed "I Love You"

ヴェルヴェッツの中心メンバーだったLou Reedから。
ただしこの曲はヴェルヴェッツ時代からすでに作られていたもので、実質的にはヴェルヴェッツのものと考えることもできる。

語りに近いルーの特徴的な歌、特にタイトルでもある”I Love You”の三語を大切そうに一語ずつ歌う所がとてもよく、曲の構成も非常にシンプルで、どんな世界であろうと普遍的に存在しうる着飾らない愛を伝えている。


John Cale "Paris 1919"

ヴェルヴェッツの創設メンバーであるJohn Caleから一曲目。

アヴァンギャルドのイメージが強い彼だが実はとてもポップ。
この曲は、コーラス部分は現代目線から見てもポップでイケてるし、オーケストラを動員したバロック・ポップ的音作りも素晴らしい。

特にこのライブ盤バージョンは、ピアノ弾き語りでここまで引き込むかと唸らされるほど素晴らしく、ジョンの細かく刻むような奏法が生み出すエッジの効いたリズム感を堪能することができる。

ボーナストラック収録のストリングス付のバージョンもリズムと音にさらに厚みが増していて、原曲に近い壮大なサウンドを味わえておすすめ。


John Cale "Heartbreak Hotel"

John Caleから二曲目はElvis Presleyの名曲のカヴァー。

エルヴィスがロックンロールの扉を開いた伝説的な名曲に大胆過ぎるアレンジを加え、不気味なシンセに恐ろしげなギター、狂気を帯びていくねっとりとしたジョンの歌唱とあらゆる面で全く別の曲のようになっている。

だがそれらが全て噛み合っているがゆえに、この曲のカバーとして聴いてもジョン・ケイルの一作品として聴いても素晴らしい。
革命を起こした音楽にさらに革命的なカヴァーで挑戦し、そして評価されているというのはジョン・ケイルの前衛的な探究心や音楽的な非凡さの現れといってもいいだろう。


Leonard Cohen ”Hallelujah”

リンクを貼っているのはJohn Caleによるカヴァー版だが、紹介したいのはカヴァー元である詩人Leonard Cohenによる名曲。

この曲はとにかく詩が素晴らしく良い。
詩と音楽を味わううえで最上級の幸福を与えてくれる作品であるとすら考えており、多くの人の魂に通底する普遍的な人生観が歌われている。

ひとえにレナード・コーエンの詩がよいという曲だが、一方でジョン・ケイルによるカヴァーも素晴らしい。ライブでの演奏なのだが、詩とメロディーが一体となって流れていく透き通るような美しさは言葉では表しきれない。


NEU! "Hallogallo"

クラウトロックからはまずNEU!の代表曲を紹介。

クラウトロックの伝統的な反復するビートを下敷きに、ミニマル要素がさらに洗練されたような形で永久機関のように進行するクラウス・ディンガーのハンマービートがとにかく心地よい名作。

アンビエント的な志向を持つミヒャエル・ローターの趣向が加わることで長尺でも飽きさせない、むしり長距離ドライブでずっと聴いていたいような晴れやかな曲になっている。


Can "Father Cannot Yell"

クラウトロックの始祖的バンド、Canから一曲。
十時間をゆうに超えるライブを行っていたりとかなり前衛的なグループではあるが、録音作品には聴きやすいものも多いので身構える必要はない。

ミニマルや反復という要素を意識した作風が確立されており、芸術的でありながらカッコイイと感じられるような荒々しいサウンドがクセになる。

普通ならB面の”You Doo Right”が紹介されるアルバムだが、長いうえに即興的でわかりづらい面も多い。A面の方がグループの良さは伝わりやすそう。


Tangerine Dream "Stratosfear"

やはりドイツから、Tangerine Dreamを紹介。
絶妙な知名度なので個人的には特に強くおすすめしたいグループ。

プログレに分類されることが多いが、シンセサイザーやメロトロン、シーケンサーなどを使った電子音楽の趣が強いグループで、即興からプログレッシヴ、ウィリアム・ブレイクの詩の引用まで多彩なアプローチが特徴的。

実はGTA5のサントラの一翼を担うなど案外現代のゲーム音楽などとも親和性が高いと勝手に思っており、この曲などはただただカッコイイ。
モンハンとかもやって欲しかったがその手のメディアは嫌いだったようだ。
ジャケットはフロントマンのエドガー・フローゼやその妻が担当したものも多く、単なる音楽家として以上の多才さも感じさせるグループだ。


Kraftwerk ”Autobahn”

テクノポップの大御所、Kraftwerkから。

色々聴いてみてほしいグループではあるが、演奏時間20分越えと長ったらしいところも含めて今回はこの作品をチョイス。
電子音楽のたどり着いたポップとの親和性と、その背景にある技術的探究、ミニマルや即興演奏などへの挑戦の歴史を十分に味わえるだろう。


A Certain Ratio "Loss"

マンチェスター出身のブルーアイド・ファンクグループACRから。

随所にブラスが用いられ、リズム感はまさしくファンクのそれなのに、呟くようなヴォーカルはジェームズ・ブラウンの対極にあるような暗さで、マーティン・ハネットによるプロデュースも含めて冷徹で機械的なのが実に工業都市のマンチェスターらしい。

この厳格でクールな労働者グルーヴはアメリカでも受け入れられ、英国ポストパンク出身ながら米国のクラブシーンと深い関わりがあるそうだ。
そのような文脈を踏まえて聞くとさらに楽しめるだろう。


Can "Serpentine"

ドイツのCanから二曲目。
敢えて切り離したのは別の側面から聞いてもらうため。

最近は西洋中心主義からの脱却とグローバリゼーションが進み、世界中の民族音楽が一般に知られるようになって、そうした伝統的な西洋音楽にはない音やリズムをリスナーはごく違和感なく楽しむようになったと思う。

バルトークが祖国の民謡を集め、ドビュッシーがガムランを作曲の参考にして以来、現代音楽の世界では民族音楽は常に重要なテーマであった。
ジョージ・ハリスンがラヴィ・シャンカルに師事したようにロックの世界でも古くから重要なピースであったが、そうしたポピュラー音楽においても民族音楽ブームと呼ばれるような潮流が起こり、多くの著名ミュージシャンがインドや中近東、アフリカなどの音楽を取り入れた作品を残している。

前置きが長くなったが、要するにそういうエキゾチックな音楽が案外現代人には刺さるんじゃないかってことが言いたいのである。

Canのラストアルバムに関しては民族音楽というよりもジャズロックという感じだが、キーボードの旋律など所々に中近東の雰囲気も感じられる。
こういう感性は最近で言うとポケモンSVの四災戦BGM(音楽にジャズやロックを取り入れたSVの中でも屈指の人気曲だ)やモンハンのラージャン戦闘曲に通じるところがあり、結構流行るんじゃないかと思っている。


Nico + The Faction "Win A Few"

かつてヴェルヴェッツで歌い、ソロ転向後は独自すぎる作風で一時代を築いたNicoがマンチェスターの若手と組んだ作品。

これはインダストリアルにNicoのダークな歌声と作風、さらに中近東の要素を織り交ぜた挑戦的な作品で、しかしイイ感じに仕上がっている。
民族音楽を主題とするのではなく作品のコンセプトの一部として組み込む姿勢はさすがだし、結果として実験的かつ大衆性のある名作になっている。

ポケモンの四災BGMが好きな人はこれも好きなんじゃないかな?



で、これを誰に聞かせるっていうんですか?

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