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寮生 一九七一年、函館。今野敏著(集英社)を読む            舞台は函館ラ・サール

 息子が6年間、函館ラ・サールで寮生活を送った。噂には聞いてたけど、まさに昭和である。携帯電話は持ち込み禁止、自習も義務で義務自習という言葉がある。最初は80人の大部屋暮らし、学年進行とともに小さな部屋へ移動していく。かつて自殺した生徒がいてマスコミを賑わせたことがあった。勉強も人間関係もキツイんだろうと想像する。息子が卒業した時に「よくがんばったな」と褒めたら「いろいろあったけどね」と返ってきた。ほんとうにいろいろあったんだろう。

寮生 一九七一年、函館。今野敏著(集英社)
 函館ラ・サールは「寮生」の著者今野敏の母校であり、この小説の舞台である。校名は一度も出てこないが函館に住んだことがある人なら、ラ・サールであることはすぐにわかる。同じ函館にある遺愛女子高や函館女子商業は実名で登場するのになぜかラ・サールはない。もう一つ名前はないけど著者の略歴を調べたらわかった町がある。

 僕は、中学三年生になる春休みに、道央の町から引っ越してきた、父親の転勤のせいだ。
(中略)
 はっきり言って、転校先の中学は前の町の学校よりもレベルがかなり低かった。

寮生 一九七一年、函館。今野敏著(集英社)4頁

 このレベルの低い学校があるのは、私の生まれ故郷である。出だしでかなり気分を害されたが、描かれている函館の風景が私を惹きつけた。私も著者と同時期に函館で高校生活を送っていたからだ。

 寮生の転落死事件を巡って推理が展開する。先輩・後輩、憧れの女子高生、嫉妬、寮内の密な人間関係から生じる軋轢、著者がそこで経験したであろう日常生活が、私には興味深かった。

小峰一の作品が好きな人には、きっと面白いだろうと思う。

 

 

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