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悩んで迷って攻め抜いて/高校野球ハイライト特別篇・綾羽
選手と監督の間で微妙に認識がズレるのは、取材していてよくあることだ。
今年の綾羽のテーマは、「打つ」ではなく「攻める」だった。決して大振りせず、とにかく積極的な走塁と小技で相手を崩していく。ここまでは間違いなくチームの共通認識。ただ、そこまでの経緯は聞く相手によって変わってくる。
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新チームのスタート時、千代純平監督はバッテリーを中心とした守備重視でいこうと思っていた。ところが選手の気質と野球がどうにも合わない。秋は水口東に2点しか取れず敗れた。打撃重視の野球をさせたいが、能力的には厳しい。ならば走塁と小技を絡め、「攻める」をテーマにしていこう。これを証言①とする。
楠橋琉生主将は春に滋賀学園に敗れたあと、どうすれば勝てるかを選手で話しあった。低反発バットも導入され、チャンスで1本を待っていては苦しい。このまま何もせずに負けていくのは悔しいからと、千代監督に思い切って足を使う野球を進言した。これが証言②だ。
いったい誰が機動力重視を言い出したのか。証言①と②が違うので、取材資料をまとめるのにも苦労した。結局3試合も実況しながら、「攻める」の本質を最後までうまく説明できなかった気がする。
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滋賀大会も終わったので、いったん取材者の視点を抜いてみよう。この状況、実は組織として理想だったのではないか。
会社に例えれば社長と社員が同じ方向に進みながら、どちらも今の方針を「自分で決めた」と思っている。毎日の仕事にもモチベーションが出るし、労使関係も円滑になる。
何度も跳ね返された青い壁を綾羽が突破した背景には、幸運な「認識のズレ」があったのかもしれない。
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滋賀学園に敗れた決勝を終え、楠橋主将は「作戦や打順も含めて、監督が意見を取り入れてくれて嬉しかった」と笑顔を見せた。今年から髪型も自由になり、打撃重視でもなくなった綾羽。ただ本当に大事なのは、全員が意見を出し合いながら結果を出したことである。
悩んだ時間、迷った期間、全てを乗り越え最後まで攻め抜いた夏。千代監督は最後のミーティングで、「この試合は高校野球の一部分。もっと大事なことは2年半の間にあったはずだ」と語りかけた。勝者に拍手を贈る選手の後ろ姿を見れば、次の夏も期待せずにはいられない。
綾羽高校、準優勝おめでとう。
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