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ターニングトルソ-フッティスタ稼働終了に寄せて-

真新しい筐体が馴染みのゲームセンターに入荷した。広々としたピッチを模すカード配置スペースにそれを覆う半屋根。実況の声が聴こえる。2018年フッティスタが稼働した。

フッティスタはWCCFというサッカーゲームを前身に持つアーケードゲームだ。僕はそもそもサッカーを何となくでしか知らなかった。日本体表の試合もろくに観戦したこともなく、断片的な選手名をウイイレや子供時代の友達との会話で知っていたくらい。中学の同級生の宮田くんはレコバのモノマネをしていた。似てたかどうかはわからない。当時の僕はレコバを知らず、今の僕はモノマネのディテールを覚えてないからだ。そんな僕がフッティスタを始めたのはカードの質が良いと感じたからだ。稼働当初は毎日プレイした。対人でも負け続けだったけど、そういうものだと思っていた。


やがてかつてのWCCFファンから不満が頻出した。使えるカードが激減したこと、システムを追加してからハッキリとプレイヤーの差がでるようになったこと、一人用のプレイが殆ど機能としてなかったこと。ゲームバランスにも色々意見があった。極めつけは同一プレイヤーが複数のカードを使うサブカが容認されていることだ。プレイヤーの年齢層が高いことから一人10枚ほど持つものもいた。僕は同クラブ縛り、国縛りのサブカに0-8、0-7等の大差でで負け続けた。いつしか僕はカードを集めるだけになっていた。

フッティスタのプレイ回数は減った一方、サッカー自体に興味が出始めた。クラブは白黒のユニフォームがカッコ良かったのでユベントスのファンになり、選手はイブラヒモビッチのファンになった。僕のチームのセンターフォワードには、神が鎮座していた。

イブラヒモビッチは当時排出されて無かったため、WCCFのカードをネットで購入した。WCCFのカードは高レアリティのカードには固有スキルがついていて、その効果はマスクデータになっていた。イブラヒモビッチにはターニングトルソというスキルがついていた。

しかしフッティスタでは固有スキルは汎用スキルに変換される。僕の神が持つスキルはターニングトルソからターゲットマンという均一な個性の無い名前になっていた。なんか嫌な気分になった。

やがて僕はDAZNに加入をし、週末や夜はサッカー観戦が趣味になっていた。30越えてから新しい趣味が出来るとは思ってなかった。戦術マガジンを読み始めた。ユーチューブで昔の試合動画や解説動画を観始めた。ユベントス会議室に入った。サッカーが僕に根付いた。


フッティスタが稼働終了の報を聞いたのは今年の夏だった。馴染みのゲーセンでも空きが目立っていた。僕はユベントスのカードを集めることだけしていた。

WCCFファンからは落胆と怒りの声が聴こえてくる。彼らがどれ程フッティスタをやっていたのかは分からない。コロナの影響も無くはないだろう。しかし長寿の稼働タイトルが続編であっさり終了するのは、かつてのロードオブヴァーミリオンを彷彿とさせた。

僕はフッティスタからの新参プレーヤーでそこまで思い入れはなく、仕方ないという諦観が支配的だ。ただサッカーを好きにさせてくれた、恩義は感じている。

自宅のモニターの中では先週も、40を越えた"神"がドッピエッタを記録している。一方ピエモンテ州のビアンコネーリは本調子ではない。ハラハラしながら毎試合を見守っている。

新しい習慣をありがとう、フッティスタ。

その一言で、この日記を終える。

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