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Insight: Next Urinalysis

次世代の尿検査 Vol. 4 コラム: 尿検査の可能性

今月はNext Urinalysisと題し、尿検査の新しい可能性に注目し、特集してきました。過去にも取り上げた内容も含めたため知っている情報ばかりで新しい知見はなかったかもしれません。しかし、重要なことはその先だと考えています。まず知る、次に考える、そして行動する。この行動のところで、多くの企業、特に日本の既存企業が遅れをとっているように感じます。

日本にも、尿検査を得意とする、多くのグローバル企業があります。しかし、既存製品へのAIの適用やIcTの活用についていくつかトピックはあるものの、ダイナミックに市場を開拓する、転換するそのようなトピック今のところ公開情報としてはありません。

尿検査の未来の可能性は小さいのでしょうか?いえ、そうではないでしょう。ここまで特集してきたように、その可能性には確実に注目が、資金が集まっています。ではなぜ尿検査なのでしょうか、そして今回特集した企業、技術はどのような点が優れているのでしょうか。Next Urinalysis Vol.4では、改めて尿検査の現状と未来の可能性について整理し、考察してみます。

1. 既存の尿検査

腎臓、泌尿器疾患に関わらず、内科系のほとんどの症状で、外来、入院患者に対して尿検査は実施されます。日本では健康診断や人間ドックでも検査が実施されるため、医療業界に関わらず馴染みの深い検査の一つと言えます。

一般的に尿検査という場合、そのほとんどが尿試験紙を用いた検査を指しています。尿試験紙検査では、グルコースを始めとした糖尿病マーカー、総タンパク質、アルブミンなどの腎障害マーカー、亜硝酸や白血球などのUTI(尿路感染症)マーカー、ビリルビンやウロビリノーゲンなどの肝疾患マーカーなど多様な項目を簡易的に検査できます。社会的にもよく知られた検査になっていますが、改めて見たとき、非常に優れた検査方法と言えます。

加えて、臨床的重要性、検査数の多いのが尿沈渣検査です。尿試験紙検査が尿中に溶けている成分を測定する検査であることに対して、尿沈渣検査は非溶解成分(有形成分)を測定する検査です。
測定原理としては、顕微鏡を用いて光学的に測定する方法と、フローサイトメーターを活用し光学的に検出する方法があります。赤血球、白血球、円柱、上皮細胞などの項目を検出することで、腎、泌尿器疾患を、その状態や疾患の部位まで、尿試験紙よりも詳細に知るための検査データを得ることができます。

これらの検査は、各国薬事法の規制を受け、ほとんどの場合病院(臨床施設)で実施されています。しかし、尿試験紙検査は目視でも実施可能(試験紙の色の変化を確認する)であり、患者本人でも判定できる簡便さがあります。また、自分の検体とその試験紙以外の試薬は不要で、廃液等もないため、在宅検査や小さな病院においても非常に汎用性の高い検査です。
尿沈渣検査については、光学測定を行うためのなんらかの機器が必要であり、尿試験紙と比較すると在宅検査などには向きません。ただし、直接的に腎、泌尿器疾患由来の成分を検出できるため「尿だからこそわかる情報」が多くあります。他の検査では代替が利かないという点において、今よりも簡便に精度高く測定できれば、より大きな市場を生み出す可能性があります。

他に、尿定量検査や細菌培養の検査、外観検査等も行われますが、主要な検査は上記の2種類です。

2. 尿検査の汎用性が生み出す可能性

「尿検体採取の容易さと簡便ながん検査という未来」
尿検査全体に共通して言えるのは、その検体採取の容易さです。非侵襲に採取できる、というよりはそもそも日常的に排泄する対象であり、特殊な事情を除きその採取にあたって患者の精神的な抵抗も大きくありません。
Vol.3で取り上げたBisuはまさしくこの点に着目し、尿を用いて日常的な健康状態の把握につなげようとしています。ウェアラブルデバイスのようにオンタイムで常時測定できるわけではありませんが、1日数回の尿の排泄を考慮すれば、バイオマーカーの変動を時系列で追跡できます。管理自体はウェアラブルデバイスやスマートフォンで行えるため、顧客自身が尿検査を通して、健康状態を簡単に把握することができます。
Vol.1で取り上げたMIT、Vol.3で取り上げたCRAIFの研究においても、尿を使うことに大きな意味があります。MITの研究においては「バイオマーカーを生体内で作らせる」という点が特にユニークなのですが、そのマーカーの排泄先が尿であり、検体を大量かつ簡便に集めることができるのは大きなアドバンテージです。CRAIFの研究においては、そもそも尿中に排泄されているエクソソームが測定対象であり、検体に関しては同じことがいえます。いずれの研究も、現時点では検査の難易度、コストともに高いものですが、技術が確立し量産化が進めば「尿を用いた簡便ながん検査」という未来に繋がる可能性があります。

「既存尿検査の完成度とそれが生み出す可能性」
尿検査の中でも、尿試験紙を用いた検査は、前述した通り勘弁で特に汎用性の高い検査です。この汎用性の高さに目をつけ、測定精度を掛け合わせて新しい価値を打ち出したのがVol.2で取り上げたHealthy io.です。尿試験紙と自分たちの得意分野であるAIの技術力を掛け合わせ、個人が簡便に、かつ精度高く健康状態を把握するという市場開拓を進めています。注目すべきは、同社の使用する試験紙自体に特別目新しい点はないことです。別の見方をすると、既存製品の完成度はそれだけ高いとも言えます。今更検査項目単体で注目を集めることはありませんが、その検査範囲、精度は、今なお活用に値するものです。

スタートアップなど新興メーカーの立場になると、既存の技術(というよりは製品)を活用することで、試薬開発のコストが不要であり、また製品の保有企業より導入すれば生産設備も不要で、リソースの投入場所を絞れる点で大きなアドバンテージがあります。その既存製品の中でも、尿試験紙の検査の汎用性の高さ、試薬本来の性能の高さが要因となり、今回のHealthy io.の躍進に繋がっていると言えます。

3. 尿検査の温故知新

前述の通り簡便に集められる尿ですが、尿沈渣検査の説明で触れたように、尿だからこそ得られる情報があります。主要なバイオマーカーについては既に研究や製品化が進んでいますが、低濃度のバイオマーカーや単一項目では疾患との関わりに言及できないバイオマーカー(CRAIFの研究もこれに含まれる)などは、まだ十分な研究が進んでいるとは言えません。Deep Learningによって、人が行う分析では見えてこなかった分析結果が数多く発見されている今、新しいバイオマーカー、あるいは既存のバイオマーカーの掛け合わせが新しい可能性を生み出す可能性が十分にあります。

検体の特性と、既存技術を知り、それらを新しい技術と掛け合わせることを考え、実行する。このサイクルを確実に実施している会社、研究期間が台頭し、新しい市場を開拓しつつあります。今後も彼らに注目するとともに、よろしければ一緒に考え、行動してみましょう。

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