【或る阿呆のどん底からの物語】「誘拐された話③」(ノンフィクション)

「キャッチャー冠野」どん底からの物語を一緒に楽しむオンラインサロン
2021年の記事

「誘拐された話③」 

 
 
僕たち3人は大便所にいるドラムから必死に逃げた。 

 

少しでも後ろを振り返ったらドラムがいる気がするので 
地面に流れるコンクリートの道をひたすら駆け抜けた。 

 

どれくらいの時間を全力で走っただろうか。 
みんなが体力の限界の限界を超えてヘトヘトになっている。 

 

や、やっと! 

前方に人口島の出口の橋が見えてきた。 

 

橋が見えてくると、小山くんが突然立ち止まって    

「後ろ見てみ!もう追ってこんって!俺、走るんもう無理!」 

と歩き始めたんだ。  

 

僕もヒデキもゆっくりと立ち止まり 
恐る恐る後ろを振り返った。 

 

ドラムはいない。  

 

数百メートル先にもドラムのシルエットらしきものは 

何も見えない。  

(逃げ切った!!) 

 

小山くん 
「もう大丈夫やって!せっかく人口島に来たんやから、そこの公園で遊ぼうや!!」

 


「もう、家帰った方がよくない??」

 

小山くん 
「今、橋渡ったら見つかるかもしれへんって!30分ぐらい時間潰そう!な!」

 

スクールカーストで上位にいる小山くんのことは逆らえない。 

 

僕 
「…。ヒデキはどう思う?」

 

ヒデキ
「うん、まぁ、どっちでもええけど…」

  

小山くん
「じゃあ、決まり!公園行くぞー!」

 


「う、うん…」

  

本音を言うと、僕は人口島の公園で遊びたかった。 

人口島の公園は家の近所の公園の数十倍広くて、とても珍しいアスレチックがあるんだ。 

 

全体が木で出来ていて網とタイヤがあるやつ。 
多分モチーフは船かなんかだと思う。

 

僕たちはドラムのことなんかすっかり忘れて、アスレチックでいっぱい遊んだ。  

時々小山くんが

「おーい!ここにおるぞ!!」

とふざけて大声を出す。  

 

僕とヒデキはその度に、小山くんをあわてながら注意する。

 

それを楽しむかのようにまた小山くんは  

「おーい!ここにみんなおるぞ!!」 

って大声を出す。 

 

そんなことを繰り返していると、空もすっかり薄暗くなってきて夕暮れが僕たちに時の経過を教えてくれた。

 

小山くん
「もう、絶対大丈夫やろ。家帰ろか!」

 

僕たち
「うん!」

 

僕たちは注意深く辺りを見渡しながら 

人口島の出口である橋を渡り始めた。 

 

もうすぐ家に帰れる!

 

僕たちは、橋を渡り始めたことですっかりドラムのことを 

忘れていた。 

そして、橋の坂道の4分の1をすぎた頃に事件が起こる。  

   

 
 
「シャカシャカシャカシャカ〜」 

 

ゆっくりと後ろから自転車の漕ぐ音が近づいてくる。 

  

 

僕たちは薄暗くなった夕暮れの景色と、 
たわいもない馬鹿話のせいで全く自転車に気付かなかった。

   

ヒデキ 
「何か下から自転車の音聞こえへん??」 

 

僕と小山くん 
「聞こえる??」  

 

カラスや夕方に流れる町内放送の音でよくわからない。 

僕らは立ち止まって、薄暗い橋の下の方に意識を集中させた。 

 

…。 

…。

  

ヤ、ヤツだ!! 

 

僕たちの「もう大丈夫」には全く根拠なんてなかったんだ…。 

 

僕たちに発見されたのを悟ったドラムは 

バレないようにこっそり近づくのをやめて 

「お前ら〜!!待てこら〜!!」

 

鬼の形相で大声で怒鳴りながら近づいて来た!!  

 

や、やばい!! 

 

僕たちは必死で橋の坂道を駆け上って 

走って走って走って逃げた。

 

「おんどれ〜!!逃げるな〜!しばくぞ〜!!」 

 

アスレチックで遊びきった僕らには体力は残っていない。 

 

登り坂だし、しんどくて早く走れない…。  

 

それでも必死になって坂道を駆け上がった!! 

  

その時!

 

ばち〜ん!!  

 

後ろを振り返ると小山くんがドラムに捕まって  

小山くんが叩かれている。 

「え〜ん!!」  

 

その場で泣き崩れた小山くんの泣き声が 

夕暮れの空にカラスの声と一緒にこだまする。  

大きな緊迫した空気が張り詰める。  

 

ドラム 
「おい、こいつがどうなってもええんか?」  

 

僕とヒデキは一瞬立ち止まると 

ヒデキ
「今は逃げて助けを呼んだ方がいい!」 

夕暮れに染まったヒデキが恐ろしくカッコ良く見える!

 


「うん!」 

 

僕とヒデキは戸惑いながらも歩くスピード並みの走ることをやめなかった。 

 

 

 

ドラム 

「チッ!」 

小山くんを正座させてドラムが再び僕らを追いかけてくる!  

 

捕まったら殺される!!

 

必死で必死で逃げたけど、僕は橋の頂上に着くちょっと手前で 

ドラムに捕まってしまった!! 

 

ドラム 
「おい、あとはお前だけや!!こっち戻ってこい!!」

 

その光景を見て、数メートル先のヒデキは渋々戻って来た。 

  

 

これからドラムの公開処刑が始まる。 

 

 

ドラムが僕たちを人口島の橋の下まで戻させて 

一列に並ばせた。 

 

ドラム 
「お前らよくも逃げたな!!誰や〜!? 
最初に逃げようっていったやつは!?しばいたるわ。」 

 
大きな声で怒鳴られた。  

 

ドラムは怒りと汗で真っ赤になって、おでこに数本の血管が浮き出ている。

 

さっき叩かれた小山くんが言葉を絞り出すように言った。 

 

小山くん 
「僕じゃないです…」 

 

こ、こいつ!なんて奴だ!速攻で裏切りやがった!! 

けれど、小学生3年生なので仕方がない。 

 

 

ヒデキはあまりの怖さに俯きながら震え出している。  

 

(ヒデキも震えてるし…よし!) 

 

僕 
「僕です…。僕が2人に逃げようって言いました!秘伝忍法帖ってロッテちゃうし、シールも弁当もらえなかったし。」 

 
僕は全部正直に言った。  

 

僕は昔から正義感が強い。 

悪い言い方をすると「空気が読めない」「真面目すぎる」 

所がある。 

 

ドラムは顔を覗き込むように、汗だくの顔を近づけてじっと僕の目を見てきた。

 

僕も怖かったけどドラムの目をしっかりと見た。 

緊張して口もへの字になっている。 

 

ドラム 
「違う!お前じゃない!お前は嘘をつかない目をしている!!」 

 

(そりゃ嘘は言っていない)

 

そう言うと、ドラムは僕の前からヒデキの前に移動した。

 

ドラムは何か確信を得ているように、静かにゆっくりとヒデキを威圧した。  

 

ドラム 
「おい…。お前やな?」

 

ヒデキ 

「…」 

 

ヒデキは恐怖で言葉が出ずに俯きながら震えている。 

 

ドラム 
「お前かって聞いてるやろ〜!!」

 

今度は大声で怒号した。 

 

ヒデキ 
「ぼ、僕は知りません…」 

 

ドラム
「あ〜??」 

 

ヒデキ
「僕は知りません…。」  

 

オドオドしながらも僕を庇ってくれた。 

(「知りません」だから)

  

ドラム
「お前は嘘をついている。」 

 

ヒデキ 
「知りません…」 

  

もう一度、蚊の鳴くような声でヒデキが答えた瞬間

 

バチ〜ん!バチ〜ん!っと2回大きな音が鳴った。 

ドラムがヒデキの頬を往復ビンタでぶったのだ!!

 

ドラム 
「お前じゃ〜!!嘘つきやがって!!」 

 

真っ赤に腫れた頬に両手をあてて、ヒデキはただただ震えて泣いている。 

  

ヒデキはとんだトバッチリだ。  

 
僕 
「ヒデキちゃいます!僕です!!」

 

ドラム 
「もうええ。友達かばう気持ちわかった。お前ら!!二度と逃げるなよ!!わかったんか〜!?」 

 

 

僕たち 
「は、はい…」 

 

ドラム 
「よーし、それならあそこのアスレチックで遊ぼう。」 

 

まさに地獄だった。 

さっき僕たちが遊んでいたアスレチック公園だ。 

 

誰も何も言えずに、もう一度公園で遊ぶことになった。 

 

まさに「接待遊び」だ。 

 

ヒデキを見るとほっぺがうっすらと晴れている。 

 

僕 
「ヒデキごめんな…」 

ヒデキ
「お前のせいちゃうし…」 

 

本日2度目のアスレチック公園に着いた。 

大きなタイヤも陽が沈んだことで冷たくて硬くなっている。 

 

ドラムが飽きるまで僕たちは無心で遊ぶフリをしてひたすら時が過ぎるのを待った。  

そんな中、小山くんは意外と楽しんでいて、話もドラムと盛り上がっている。 

 

この地獄の時間はほんの数分だったけど、僕とヒデキには1時間以上に感じた。  

(早く家に帰りたい…) 

 

そう心の中で思っていると、ドラムが小山くんと一緒になって僕たちに話しかけてきた。

 

ドラム
「こいつ(小山くん)が家の近くの公園の何処かに500円埋めているらしい
(埋めた場所を忘れている) 早よ橋渡って公園に掘りに行くぞ!!」 

 

?? 

 

?? 

 

ドラクエの呪文パルプンテより訳がわからない。  

 

僕とヒデキは訳がわからないまま

強制的に小山くんが埋めた「500円を探すお宝探し」に参加することになる。  

 

 

つづく

 

  

(毎週月曜日)
 



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