誘拐された話②(ノンフィクション)
キャッチャー冠野「どん底からの物語」を一緒に楽しむ
オンラインサロン2021年の記事
「誘拐された話」②
ドラムに連れられて
僕たち4人は人口島に渡る橋の前まで来たんだ。
橋を渡り始めて数10メートルのところで
高田くん
「あ、俺、公文あった!帰らんと!」
と言って
言い出しっぺの高田くんはあっさりと帰ってしまった。
僕
(え?何なん?)
残りは小山くん、僕、ヒデキの3人。
僕は次第に
(何かわからないけどヤバイなぁ…)
と本能的に感じたんだ。
(この人本当にロッテの副社長の息子なんか??なんかシャツだるだるやし…)
疑えば疑うほど、男が胡散臭く思えてくる。
ドラムと小山くんは相変わらず楽しそうに話している。
その後を2メートルぐらい離れて僕とヒデキは金魚の糞みたいについて行った。
僕はドラムに聞こえないようにヒデキに
僕
「なあ、ヒデキ、帰らへん?」
ヒデキは僕の顔をまじまじと見てくる。
僕の真剣な目を見てヒデキも真剣にうなずいてくれた。
ただ、僕たち2人は極度の人見知りブラザーズだ。
人と喋る時、極端に緊張して俯いてしまう。
僕は何とか勇気を振り絞って蚊の鳴くような声で
僕
「すいません、、。僕たち家に帰ります。」
何とかドラムに言うことが出来た。
その瞬間ドラムが怒った声で怒鳴るように
ドラム
「なんや!?なんかあるんか?」
僕
「あ、あ、あの…遅くなったらあかんし、、、。」
僕はとっさに嘘をつくことが出来なかった。
あっさりと高田くんや岩城くんやたけちゃんみたいに帰らし
てくれると思ってた!
ドラム
「それやったらあかん!シールあげるから!」
僕
「は、はい…」
人見知りブラザーズのミッション失敗。
僕とヒデキは再び金魚の糞のようにドラムと小山くんに
強制的についていく事になった。
僕は後悔をしばらく背負ってから、すぐ頭を切り替えた。
このドラムが言っていること(ロッテの副社長の息子)が本当かどうか確かめよう!!
そう思って、またドラムが笑っている時に再び質問した。
僕
「あの〜ロッテの副社長ならアイスの「秘伝忍法帖」のシールももらえるんですか?」
僕はわざと「ロッテ」ではない「エスキモー」の会社のシールを言った。
いわゆる引っ掛け問題だ!!
当然貰えるはずはない。
ドラム
「秘伝忍法帖??あ〜あれな!もちろんや!なんぼでもあげる!!」
…
…
う、嘘だ…
ヤ、ヤバイ!
僕は全身に恐怖と寒気が走ってフリーズした。
こいつ、嘘ついている!!
「エスキモー」だからシールがもらえるわけない!!
僕はすぐに、その事実をドラムに聞こえないようヒデキに伝えた。
ヒデキ
「…」
ヒデキも僕と同じようにフリーズした。
スロットなら万枚コースだ。人生そんなに甘くない。
ヒデキ
(やばいやん、逃げよう。)
ヒデキと僕はアイコンタクトでお互いの意思を確かめ合ってうなずいた。
ドラムから逃げる機会を探っていると、いつの間にか橋を渡り切って人口島についてしまった。
僕はもう一度
僕
「あの〜、僕たちシールはいいから帰ります…」
もう人見知りなんて言ってられない!!
その瞬間!
ドラムは初めて怖い大人の顔をして僕に
ドラム
「あかん!すぐそこやし!お前らお腹すけへんか??」
と、すっとんキョンな発言をした。
僕とヒデキ
(???)
小山くんはドラムとお腹が空く空かないの話をしていたらしい。
小山くん
「お腹すいた〜」
ドラム
「ここから突き当たりを右に曲がったところは気球を打ち上げてるんや。
そこに行ったらお弁当もらえる。」
小山くん
「えー食べたい。なあ、かんちゃんも食べたいやろ?」
僕
「う、うん。」
正直お腹は空いていた。
ドラム
「よし、じゃあ、みんなでお弁当をもらいに行こう!!」
小松くん
「ビックリマンは??」
ドラム
「よー考えたら今日は土曜日やろ?親父おれへんわ。また、今度あげるから。約束や!!」
僕たち
「…。う、うん…」
頷く意外に選択肢がなかった。
ただ、弱々しい僕の表情の裏側では、物凄いドラムに腹が立っっていた。
(約束ちゃうやん!!今持っているシールくれよ!!)
そんなことは言えるはずなく、ドラムの思うがままに気球の広場にお弁当をもらいにいく事になっている。
海沿いのコンクリートの道を直線1キロ歩いて突き当たりを
右に2キロ歩いたら気球を打ち上げる広場があるらしい。
みんなはそこを目指して歩き出す。
僕
(ビックリマンは貰われへんし、気球にお弁当って何やねん)
僕もヒデキもただただ、逃げることだけを考えていた。
ドラムは小山くんとずっと喋っている。
小山くんにも逃げることを伝えなければ。
僕もヒデキも、もう帰りたい気持ちしかない。
1時間後に、気球がある広場に着いた。
僕たち
(…)
気球があるはずの広場に気球なんか全くない。
あるのは小学校のグランド10っこぶんぐらいの草の生えた広場だけだ。
ドラム
「あー、今日は気球ないわ。おかしいなぁ。」
僕はビックリマンがもらえない怒りとお腹がすいた
怒りから珍しくドラムに強めに言った。
僕
「お弁当もらえないんですか?お腹空きました、、、。」
ドラムも最初は気まずそうにしていたけど、すぐに真顔になって
ドラム
「まーもう少し待っていたら気球始まるかもしれんわ。」
僕たち
「どれぐらいですか?」
ドラム
「まあ、、。3時間ぐらい。ここでまとか?」
僕は本当に腹が立った。なんでまたんとあかんねん。
ビックリマンもらわれへんし。
僕
「そしたら、絶対お弁当もらえるんですね?約束してください。もらえなかったら帰ります。」
ドラム
「うーん、やっぱし、今日は気球ないわ。来た道とりあえず戻ろか。」
僕
(どないやねん…)
そう言ってみんなお腹がすいたことも重なり無言で来た道を戻っていった。
ドラムがちょうど来た道の突き当たりについた時
ドラム
「ちょっと便所行ってくる。」
自転車を降りてトイレに言った。
その時、僕は小山くんに男が嘘をついていることを必死で伝えて
僕
「一緒に逃げよう!」
と小山くんに伝えた。
小山くん
「別に逃げなくてもええんちゃうん?」
僕
「嘘ついてこんなところまで連れてこられてんねんで。やばいって、なぁ、ヒデキ?」
スクールカーストでは、明らかに小山くんの方が上なので
僕の話を聞いてくれない。
一人だと説得力がないので、ヒデキにも同意を求めた。
ヒデキ
「うん。逃げよう」
小山くんは渋々僕の意見に従ってくれることになった。
それから、僕は男の自転車を電信柱の近くに隠して
(鍵は元々壊れていてなかった)もうダッシュで逃げた。
ここから3人の逃走劇が始まる。
続く
(毎週月曜日)
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