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コロナ禍の音大入試―分刻みのスケジュール、苦肉の策であの入試科目をカット!?

音大入試は長い期間かけて行われる。専科試験、副科ピアノ、聴音、新曲視唱などなどと、科目が多いうえに、1人ずつ一曲ずつ演奏を聴くからだ。

そんな音大入試が、今年はコロナ対応にも追われた。
きっと、密にならないよう、飛沫感染をしないよう、校舎内の広いスペースを探し、限られた時間を駆使したことだろう。

今回は、そんなコロナ禍の音大入試の現状を、各大学の基本的な入試情報から考えてみた。

(なお、音大入試には何の試験があり、どんなスケジュールかは来月に記事を書きます!)

音大入試の特徴

東京にある有名な音大のうち、個人的にパッと思いつくものを挙げてみた。

【私見。東京の有名な音大(50音順)】 (この記事での略称)
桐朋学園大学 (「桐朋」)
国立音楽大学 (「くにたち」と読む、「こくりつ」と紛らわしいので「国立音大」)
東京音楽大学 (「東京音大」)
東京藝術大学 (「藝大」、唯一の国立(こくりつ)の音大、芸術の「芸」を「藝」と書くのが藝大流らしい)
武蔵野音楽大学 (「武蔵野」)

詳しい試験科目や試験スケジュールなどは来月の記事でまとめる。
ここでは、試験科目を少し並べてみる。

・国語や英語などの筆記試験
・専科試験 (楽器の専攻の受験生は複数曲を演奏)
・副科ピアノ (ピアノ科以外の受験生のピアノの試験)
・聴音 (曲を聴いて楽譜に書きおこす)
…など

では、これらの試験のうち、センター試験(大学共通入学テスト)のように、一斉にまとめて試験を行えるのはどれだろうか?

それは、国語や英語などの筆記試験と、曲を聴いて楽譜に書き起こす聴音の試験である。


それ以外の試験は、すなわち、専科試験と副科ピアノは、楽器を演奏する試験なので、一人ずつ、1曲ずつ演奏を聴いていかなければならない
それにはとても時間がかかる。

ここで少し脱線して、どのくらい試験に時間がかかるかを概算してみよう。
興味がある人は読んでもらいたい。
(結論から言えば、2021年の藝大の試験は、募集要項によると、
「2月25日から3月8日までの、1週間と4日」かかる。)

【音大試験にかかる期間の概算】
前提
・最も倍率の高い藝大を例として考える。
・1次試験、2次試験、3次試験まであるとする。
・器楽を専攻する受験生を対象とする。作曲や音楽学などは略す。

まず、1次試験から考える。

1次試験の専科試験では何曲を演奏するだろうか?
専攻楽器によって異なるだろうけれど、だいたい平均して2曲を演奏するとしよう。

では、1次試験の専科試験ににおいて、1人の受験者にかかる時間が何分か?
1人2曲演奏するとはいえ、だいたいが1曲通してではなく、途中で演奏を止められる(鐘がチーンって鳴らされるやつ…)。
そのため、1曲につき1分演奏し、曲間の準備に30秒かかるとしよう。
そうすると、受験生1人につき、1次試験で2分30秒の演奏時間がかかる。
プラスして、試験場に入ってきて自己紹介して、演奏後に出ていく時間がかかる。
従って、受験生1人につき、4分かかるとする。

では藝大の器楽専攻の受験生はどのくらいか。
藝大のHPより「令和3年度 学部一般入試 ・ 別科志願者状況」によると、
この年の器楽専攻の受験生は425人いる(倍率は4.3倍)。

そうであれば、受験生全体の1次試験の専科試験にかかる時間はどのくらいか?
 4分 × 425人 = 1700 分 = 28.3 時間が必要になる。

では、2次試験と3次試験はどのくらいかかるか?
藝大の2次や3次では、試験科目に筆記が含まれる。そして、受験生は減る。
従って、2次と3次は、1次試験よりも短い時間で終わると考えられる。
ここで仮に、2次と3次を合わせて、1次試験と同じ時間がかかると考えてみよう。
従って、2次試験と3次試験を合わせて28.3 時間となる。

そうであれば、1~3次試験にかかる時間はどのくらいか?
1次試験に28.3 時間、2次試験と3次試験を合わせて28.3 時間なので、
28.3 時間 × 2 = 56.7 時間が必要になる。

そもそも、1週間に何時間の試験が行えるか?
9:00から18:00まで試験を行い、お昼休憩を1時間挟んだとしたら、1日に8時間行える。だが、国立の藝大は、おそらく土日がお休みであるため、1週間に40時間分の試験を行えるとする。

以上より、藝大の器楽科専攻の1~3次試験にかかる期間は?
1週間に40時間分の試験を行うとすると、
(ちょっと面倒だから56.7時間の小数点を切り捨てて)56時間の試験を終えるには、1週間と2日かかることとなる。

実際には?
2021年の募集要項によると、藝大の器楽科の試験期間は
2月25日から3月8日までの1週間と4日。
器楽以外や準備の日が入ることを考えれば、だいたいあっている。

(ん?これ調べたら、今までの計算いらないのでは…?)


以上のように、藝大の試験期間は、
「2月25日から3月8日までの、1週間と4日」
であった。

その他の大学は藝大ほど受験生が多くはない。
例えばサクッと見つかった、国立音大の演奏・創作は受験生が一般入試では2020年度は137人だった。(国立音大のHPより「2020年度 音楽学部入試状況」)。
けれども、その分、一般入試と推薦入試に分かれていたり、一般入試も複数回行ったりするため、やはり試験に時間がかかることが想像できる。


このように、音大入試は、
入試科目が多く、かつ、入試科目の中に一斉に同時に行える筆記試験が少なく実技試験は演奏に時間がかかるため、
「試験期間が長い (一度の試験に、だいたい1~2週間必要)」なのが特徴といえる。


コロナ禍の音大入試

このような長い期間にわたる入試形態をもっている音大
そんな音大入試でも、このご時世にはコロナの対策をしなければならない

普段の入試以外にコロナのために気を付ける点としては、きっと、

・試験待ちの受験生が、密にならないように
・試験待ちの受験生は、喚起の良い場所にいるように
・試験中の飛沫感染を防ぐため、受験生と試験官の距離を取るように

などだろうか。

これらの対策をするとなると、広いスペースを奪い合い、換気と消毒の時間を含めた、より分刻みのスケジュールになることが推察される。

そうであれば、どんなに頑張ってスケジュールを立てたとしても、もともと試験期間として予定していた期間を軽くオーバーしてしまうことに違いない。

そんな状況が透けて見えるのが、各大学の今年(2021年に行われる入試、2021年度入試)の受験形態の変更のお知らせだ。
例として、国立音大、東京音大、武蔵野、東京藝大のお知らせを見ていこう。


国立音楽大学

国立音楽大学(国立音大)の入試には、一般選抜(A日程とB日程)、学校推薦型、総合型があるとのこと。
そのうちのA日程について、従来と変更のお知らせが出ていた。

A日程の試験期間は、2月15日(月) ~ 2月17日(水)。
合格発表は、2月20日(土)。

お知らせの主な内容は
入試の実施方法は、「対面」と「オンライン」が選べる
新型コロナに罹患した受験生への対応として、追加料金なしで別日程の試験を受けてOK
試験科目の削減を行う。希望する専攻によって異なる科目を削減するが、削減対象の科目は「聴音」(演奏される音楽を聴いて楽譜に書きおこす科目)と「コールユーブンゲン」(教本の名前、歌う課題)。

以下にお知らせの内容を抜粋して載せる。

一般選抜(A日程)(2021年度)(2020.12.10更新)
https://www.kunitachi.ac.jp/admission/college/examination.html

【入試の実施方法】
従来の「対面方式」に加えて「オンライン方式」(ICTを活用した面接や実技動画の提出等)を取り入れた入学試験を併用して実施いたします。
※「対面方式」、「オンライン方式」のどちらを選ぶかは、出願時に決めていただきます。

【新型コロナに罹患した受験生への対応】
一般選抜(A日程)において、新型コロナウイルス感染症等を理由に当該試験を受けられなかった受験生に対し、受験機会を確保するため追加の受験料を徴収せずに、別日程への受験の振替を行います。その際、医療機関の診断書が必要になります。

【試験科目の削減】
・声楽専修、弦管打楽器専修、作曲専修の器楽(ピアノ),鍵盤楽器専修(ピアノ・オルガン)の聴音、声楽専修のコールユーブンゲンは実施しません(対面方式、オンライン方式とも)。


東京音楽大学

東京音大の入試には、総合型選抜、学校推薦型選抜、外国人留学生選抜、一般選抜(A・B 日程)があるとのこと。
そのうちの全ての選抜について、従来と変更のお知らせが出ていた。

一般選抜のA日程の試験期間は、2月16日(火) ~ 2月20日(土)。
合格発表は、2月26日(金)。

一般選抜のB日程の試験期間は、3月20日(土) ~ 3月21日(日)
合格発表は、3月23日(火)。

お知らせの主な内容は
入試の実施方法は、「対面」と「オンライン」が選べる
新型コロナに罹患した受験生への対応として、追加料金なしで追試OK
試験科目の削減を行う。全専攻に対して行われる。削減対象の科目は「楽典」(音楽用語や音楽の基礎知識の筆記試験)、「聴音」(前述)、「新曲視唱」(知らない曲の楽譜が出されてそれを歌う課題)、「副科ピアノ」(ピアノ専攻以外の受験生のピアノの実技試験)の試験。

以下にお知らせの内容を抜粋して載せる。

新型コロナウイルス感染症拡大に伴う2021年度入学者選抜対応について
https://www.tokyo-ondai.ac.jp/cms/wp-content/uploads/2020/09/2021cee_covid19.pdf
東京音楽大学入試試験要項
https://www.tokyo-ondai.ac.jp/cms/wp-content/uploads/2020/10/undrgrad_admssn.pdf

【入試の実施方法】
受験生は、いずれの専攻の入学者選抜においても、原則として従来通りの「対面式」か、来学不要の「非対面式」かを選択して受験することとします。ただし、音楽文化教育専攻の選抜はすべて「非対面式」で実施、作曲指揮専攻「指揮」およびミュージック・リベラルアーツ専攻(指揮)の選抜は「対面式」のみ実施します。

【新型コロナに罹患した受験生への対応】
「対面式」で出願した受験生で、新型コロナウイルス感染症に関係する事由により受験できなかった場合は、入学検定料と出願内容をスライドして追試験を受けることができます。

【試験科目の削減】
2021年度の入学者選抜に限り、受験生の新型コロナウイルス感染のリスクを最小限に留めるため、楽典、聴音、新曲視唱、副科実技(ピアノ)の試験を取り止めることとしました。
しかし、これらの知識やスキルが入学の時点で不要であるということではありません。受験生のみなさんは、引き続きご自分の目指す専攻の勉強と共に、音楽基礎能力を高める努力を続けてください。


武蔵野音楽大学

武蔵野の入試は、総合型選抜、学校推薦型選抜、外国人留学生選抜、一般選抜(A日程とB 日程とC日程)があるとのこと。
そのうちの一般選抜(A日程とB 日程とC日程)について、従来と変更のお知らせが出ていた。

一般選抜A日程の試験期間は、2月18日(木) ~ 2月22日(月)。
合格発表は、2月26日(金)。

一般選抜B日程の試験期間は、3月5日(金) 〜 3月7日(日)。
合格発表は、3月10日(水)。

一般選抜C日程の試験期間は、3月16日(火) 〜 3月18日(木)。
合格発表は、3月19日(金)。

お知らせの主な内容は
入試の実施方法は、「対面」と「オンライン」が選べる
新型コロナに罹患した受験生への対応として、追試の対応措置を検討
試験科目の削減を行う。全専攻に対して行われる。削減対象の科目は「新曲視唱」(前述)、「聴音」(前述)の試験。

以下にお知らせの内容を抜粋して載せる。

入試関連新着情報 > 2021年度 音楽学部 第1年次 一般選抜 入学者選抜要項:【2020年12月改訂版】の発行について (2020年12月16日)
http://www.musashino-music.ac.jp/news/entrance/2020-12-16/

【入試の実施方法】
一般選抜:A日程・B日程・C日程の全日程について、通常の対面での試験実施方法に加え、ICTを活用した試験の方式(演奏動画データの提出による審査、および、ICTを活用した楽典・国語・外国語・課題小論文・口頭試問・面接の試験や審査)を追加します(以降、「オンライン方式」と呼びます)。
志願者の皆さんは、「対面方式(通常入試)」または「オンライン方式」、どちらかを選択して出願してください。

【新型コロナに罹患した受験生への対応】
新型コロナウイルス感染症に罹患し、入学者選抜試験初日までに医師が治癒したと診断していない出願者や、試験初日以前の14日間(試験初日の前日を1日目とします)に保健所等から本人や同居家族が新型コロナウイルスの濃厚接触者に該当するとされた場合は、他の受験生や審査員等への感染の恐れが考えられるため、受験(入構)をご遠慮いただきます。この場合、追試験の対応措置を検討します。

【試験科目の削減】
一般選抜:A日程・B日程・C日程の全日程について、2021年度入学者選抜試験の特別措置として「視唱」と「聴音」の試験実施を取り止めます。


東京藝術大学

東京藝大の入試は一度のみ(国立だから)。

試験期間は、2月25日(木) ~ 3月8日(月)。
合格発表は、3月13日(土)。

お知らせの主な内容は
自分で検温して、熱などの症状があったら医療機関を受験して
新型コロナに罹患した受験生は、受験不可。でも、追試もなし
試験科目の削減を行う。副科ピアノが試験に含まれる専攻に対し、副科ピアノの試験を中止する。

以下にお知らせの内容を抜粋して載せる。

2021年度東京藝術大学大学院音楽研究科・音楽学部・別科入試(2021年2月~3月実施)における受験者(同伴者を含む)への要請事項について
https://admissions.geidai.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2020/12/d140b464760419e8fe22a2be3f24ad37.pdf

【受験生へのお願い(抜粋)】
受験者(同伴者を含む)は以下の事項を遵守すること。
 ①自主検温すること
 ②発熱・咳等の症状がある受験生は医療機関での受験を行うこと
 ③新型コロナウイルス感染症に罹患したり、保健所より濃厚接触者に該当すると伝えられたり、試験当日に発熱・咳等の症状のある受験生は受験できず、同伴者は同伴できない。
 ④③により受験を取りやめた者を含め、追試験は実施しない。

2021年度東京芸術大学音楽学部入学者選抜試験における一部試験の中止について
https://admissions.geidai.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2021/01/098c2292b2ebbe3e658d4e35723b4967.pdf

【試験科目の削減】(要約すると)
副科ピアノが試験に含まれる専攻は副科ピアノの試験を中止する。


最後に

いかがだっただろうか。音大入試とは分刻みのスケジュールで、先生方と大学側の苦労が半端ないものである。

コロナ禍においては苦肉の策として、副科ピアノや聴音、新曲視唱のカットが行われた。コロナ対策をしていくと、試験期間が足りなくなるため、より副次的な試験はカットという策に出たことがよくわかる。そのカットの方針に大学の色が出ていると思う。推測するに、受験人数や今までの試験結果からカットの決断をしているのかもしれない。

コロナ禍の受験は従来と異なることは他の大学でもあるだろうけれど、音大入試の分刻みのスケジュールと飛沫感染のコロナの性質が重なって、試験科目のカットに至ったのだろう。

受験生と先生方との安全がしっかり確保され、受験生が実力を出せ、先生方が見極められる受験となることを願う。


おまけ

フライブルク音楽大学の“リモート入試”にヤマハが協力とのこと。
面白い話題により、載せておく。

近未来には外国の音大入試を日本で受けるのがスタンダードになるのだろうか。



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音楽系大学院生による調査とその発信。芸術家の生年関係から、クラシック音楽と文化を視る。Twitterも@catcatus (URL:https://twitter.com/catcatus)