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雲渦巻く〈雲南省〉少数民族自治区探訪記~元陽・ハニ族の棚田~

元陽は、雲南省の省都・昆明から286キロ南に位置し、主にハニ族、イ族が暮らしている。
山の斜面に築かれた棚田は、ハニ族の勤労と知恵の証。その美しさは「天梯(天の階段)」と称され、2013年には世界遺産に認定された。

雲南省における元陽一帯の位置(白地図専門店さま)

元陽の棚田の歴史は古く、およそ2500年前から作られはじめたとされ、大昔の人々の間でもすでに評判を呼んでいたという。
私がこの地を訪れたのは、まだ世界遺産に申請中の、2005年3月中旬だ。

険しい山岳地の街「元陽」の早朝

越南(ベトナム)と国境を接した、雲南省東南部の紅河一帯。
そこに、山の斜面に築かれた「元陽」と呼ばれる小さな町がある。

ハニ族 美しく着飾ってはいるが、これが普段着
どこでもドアを使って、どちらへ?
元陽の朝の食堂の様子 調理は店の外でパパッと手早く
 土鍋で温められた麺のうえに、たっぷりの薬味を入れる。最高に旨い
ハニ族の葬列を見かけた
赤いのが棺で、白い喪服を着た人々があとにつづく

元陽の山々には斜面いっぱいの棚田が広がり、世界遺産登録前の2005年当時でも、すでに世界中の注目を集めていた。
とくに11月から4月にかけて、棚田には水が張られ、ここでしか見られぬ奇形が眼前に広がる。棚田の一番上から水を流し、田に入れていく作業は、棚田ならではの利点を生かしたものだ。

山の斜面に築かれた棚田群

3月中旬の雲ひとつなく晴れわたった午前の棚田。
午後の日差しの中で見る棚田がもっとも鮮烈で美しいと言われるが、午前に見る棚田もまた柔らかな美しさを持っている。

間近で見ると、美しいのか、あるいは気持ち悪いのか、ちょっと首をひねってしまう奇景だ。細胞だったり、葉脈だったり、そうしたミクロの世界にも似ているし、あるいは金具に嵌めこんだ硝子細工にも見える。

これが実は、ただの棚田であり、この地の人々にとっては日常の風景にすぎないだなんて、とても信じることができない。

棚田の奥から、賑やかな声が聞こえてくる
よくよく見ると、子供が道具を使って、棚田でなにかを掬っていた

水は当然ながら透明だ。青く見えるのは、空の色を映しているためだ。
午後にはもっと深い青色に、夕暮れには茜色に、朝には黄金色に染まる。
棚田は刻一刻と姿を変える。

棚田がこうも奇妙な形をしているのは、山の尾根と谷間を生かして作っているからだ。山の形を崩すことなく、むしろ棚田の形を山に合わせて作る。
自然との共存が、このような不可思議な形を生みだしている。

農作用の小屋がぽつりぽつりと、棚田の中に建っている
人々はまるで迷路のような畦を通って、あそこまで行く
旅の仲間たちが棚田の中の道を歩いていく
じつは棚田のひとつひとつは、かなりの高さがあることがわかる
道の正面から水牛たちがやってきた
脇にのけて水牛と村人が列をつくって去っていくのを見送る

2500年という悠久の時をかけてつくられてきた絶景に、ただただ感嘆の息がもれる。

そんな棚田の中を歩いて向かうのは、ハニ族の村――バダ村だ。

バダ村の入り口 どこか日本の風景に近しいものがある

訪問時、ハニ族の村々はちょうど祭の季節。
祭祀の長である龍頭(ロントウ)と、元気いっぱいの子供たち、のちに祭の生贄となる豚や鶏が迎えてくれた。

突然の訪問者に驚き、好奇心いっぱいに顔をのぞかせたハニ族の少女

そしてこのとき、ガイドをうけおってくれた現地在住の日本人カメラマンが繋いでくれたご縁により、本来は女人禁制だという祭を見学させてもらえることになった。
その貴重な体験談は、また次回。

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