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雲渦巻く〈雲南省〉少数民族自治区探訪記~大海草山~

羊と羊飼いのいる大草原「大海草山」

雲南省における大海草山のある会沢県の位置(白地図専門店さま)

2004年2月から2005年9月まで、中国雲南省の省都「昆明」で語学留学をした。その間、「実地訓練」という口実のもと、たびたび学校を休んでは雲南省各地を旅してまわった。

2005年4月、留学仲間とともに目指したのは、雲南省の北東部にある「大海草山」という牧草地だ。

大海草山までの道中に広がる中国の田園地らしい風景

雲南省の省都「昆明」から、高速バスや列車、包車(チャーター車)を利用して、「大海草山」のある曲靖市会沢県を目指す。

東川という町から午後に一本しかないバスに乗って、険しい山道をゆく
道中、岩肌むき出しのゴツゴツした風景が広がっている
平地がなく、山の斜面には無数の棚田が築かれているが、棚田にしてなお傾斜が厳しい

やがてバスは「大海」という名の小さな町に到着する。
ちょうど市場が開かれており、地元の人で賑わっていた。

賑やかな市場の様子。不思議にカラフルなのは、雲南省ではおなじみの光景
地元の彝(イ)族の女性たち 買い物籠やほっかむりの布が可愛らしい
雲南では日常的な光景、道端ミシン屋さん

大海の町から、山を登ることさらに三十分。
平均海抜3541メートルの高地に、地元の人々が牧草地として使っている「大海草山」はあった。産毛のように、短く柔らかな草だけが山を覆う、奇妙になめらかな草山群である。

視界に映るのは、果てしなく広がる草山と、ただただ広い空。
どこまでも小さい自分を実感し、途方に暮れる。

はるか向こうの草山に、奇妙な影が見える。目を凝らすと、それは白いマントを羽織った人の姿だった。羊飼いだ。
午後の遅い日を浴びて黄金色に輝く草山、そこに立つ人影は絵本の一頁のようだった。

昔のデジカメで撮影したので画素は荒いが、カメラに気づいた女性が照れ笑いを浮かべている
大海草山には巨大洞窟がふたつあるという
手前には荷物を放りだして居眠りをする女性

帰りのバスはもうないので、モンゴル族のゲルを模した宿泊施設で泊まることにした。
モンゴルと草山とは関係ないと思うのだが、似合ってるのでいいのだろう。それとも、モンゴルのチンギス・ハンははるか南の山岳地にあった雲南省にまで攻めてきたというから、あながち関係なくはない……のか!?

草と羊しかいない大地の日が暮れていく

ゲルで一泊という貴重な経験をし、夜明けとともに、羊飼いが牧草地を訪れ、羊が草を食みはじめる。

草山はどこまでもどこまでも続く。
全てを歩いて回ろうとすれば、三日以上はかかるのではないだろうか。

奥の山の頂上になにかあるんだけど、20年間、ずっと気になりつつ答えがわからずにいる

大地を斬るようにして流れる、一筋の川。
牛が、馬が、羊が、また人が、水を求めて川を頼る。

高台からは雲海が見える

昼近く、宿泊施設のある高台から山のふもとのほうを見下ろすと、下方に雲海が湧きあがってきているのが見えた。
時折、雲の中から人が現れるのが見え、「あちらには何があるのか」と施設の人に尋ねると、「ふもとに村がある。でも途中から道がなくなり、道も険しくなるので、絶対に行ってはダメだ。帰る道を見失う」と言われた。
行ってみたくなった。

施設は石板葺きの屋根で、この地域特有のつくりだという。

羊飼いたちのマントは、羊を真似て作られたものなのだろう。
羊たちの間に紛れたその姿を見つけるのは、なかなか大変だ。

牧草地から一歩外に出ると、世界は一変する。
険しく荒涼とした山肌、ゴツゴツした岩が斜面に散っている。

荒涼とした山々の崖っぷちに、人が休んでいるのが見える。
何でこんな所で休憩を……と思ったら、やはり周囲には家畜の姿が見られた。この険しい大地にもまた、牧人がいる。

よく見ると右下に羊飼いがいる

羊飼いの父親を手伝っていた少年。
飼い場を離れようとする羊を追って、鋭く口笛を吹きながら駆けだした姿はもう立派な羊飼い。

写真を撮ってもいいかとたずねると、「いいよ!」と言いながら、照れ臭そうに笑って、マントの中に隠れてしまった。
「なんで写真を撮るの?」と尋ねてくるので、「君がかっこいいからだよ!」と言うと、「そうかな!?」と顔を輝かせた。

当時はただただ牧草地の広がる大地だったが、2022年からは冬季にゲレンデとして開放されるようになったようだ。
あの羊飼いの少年は、30代にはなっているだろう。
今どうしているだろうか、と思いを馳せる。

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