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【怪奇ファイル005】幽霊船 メアリー・セレスト号の話

 その日、私とダンキチとランコの三人はいつものパチ屋には向かわずに知らない街に来ていました。なぜなら『新装開店グランドオープン』の情報を仕入れたから。グランドオープンはあらゆるイベントの中で最強です。

 それをみんなが寝ている間にダンキチが調べていました。そして朝みんなを起こしてすぐ「グランドオープンがある」と言ってたらしいけど起きてすぐなのでよく分からずに「うんうん」言ってたら今ここです。

 時間はもう9時50分です。しかし我々はまだパチ屋に到着していませんでした。なぜなら『地図をよく調べず』に来たから。最寄り駅を降りたらすぐ見つかるだろうと思っていました。

 あとで判明する事実ですが『駅から徒歩20分』でした。不動産は1分80mで計算するので1.6Kmです。ハッキリ申し上げますとかなり遠いです。隣町についてもおかしくない距離です。当てずっぽうじゃ到着しないと思われます。

 それでもある程度当てずっぽうをしたあと。まったく見つかる気配がしないので。我々3人はベンチに腰掛け。途方に暮れることにしました。

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 「もう開店には間に合わねえ。お前が決めな」

 とランコが私に言いました。選択肢としては『帰る』か『探す』かです。帰るとしたら。違う街に移動して。開店後に入店しても勝負になるパチ屋が何件かあるのでそこへ行くことになります。

 しかしグランドオープンは基本的に一日じゃ終わりません。一週間ぐらいは出し続ける店も多いです。明日もこの街に来ます。やはりここまで来たなら店を一度拝見してからの帰宅が良いのかもしれません。

 しかし家に帰ればインターネットで地図が調べられます。やはり今日は別の店に行って、夜家に帰ったあとに場所を調べて明日来ればいいんじゃないでしょうか。今すぐ馴染みの店に移動すれば朝一台も取れます。

 しかしグランドオープンを見つけて台が確保出来るのならそっちのほうが勝率は高いです。もしかするとそこの角を曲がると目の前にあったりして。というか通行人に聞けばすぐ分かりそう。

 しかし私は人見知りです。知らない人に声をかけるなんてとてもじゃないけど出来ません。提案したら「お前が聞け」と言われる可能性があります。そんなリスクの高い選択肢は選べません。

 ということで。決めました。帰ります。その旨を伝えたら嫌そうに「えー」と言われました。だから「じゃあ探す?」と言ったら嬉しそうに「しょうがねえなぁ」と言われました。つまり。2択を外しました。

 ということで。我々はもう一度歩き始めます。とりあえずまだ行ってない道を進みます。しかし半径1.6Kmなので正解の道を途中で引き返している可能性もあります。その事実を我々はまだ知りません。果たして今日中に見つかるのでしょうか。


 しばらく歩いていると路地裏から声がしました。なにやら人がもめているようです。しかしパチ屋とは関係ない。そんなの無視してパチ屋探しを続行します。とはならない。二人が声のする方へ歩き出しました。なんでだろう。条件反射かな。

 「うちらのナワバリで勝手なことはさせないよ」

 とランコが言いました。今日初めて来た街なのにもうナワバリになっています。しかもナワバリで迷子です。凄いと思う。

 路地裏に入って一つ角を曲がると。花売りの少女がイタリアンマフィアに囲まれていました。腕をつかまれて「はなしてー」とやってました。

 「うちらのナワバリで勝手なことはさせないよ」

 ランコがさっきのセリフをもう一回言いました。今度はイタリアンマフィアに聞こえるように。よく考えたらさっきのはタイミングが早いです。ちょっと練習したのかもしれない。

 するとイタリアンマフィアが「ちっ・・・なんでここが?」みたいなことを言いました。ノリがいいです。すると花売りの少女が「私の事はいいから逃げてー」みたいなことを言いました。ノリがいいです。

 「物好きもたいがいにしとけ」「大妖怪を捕まえて猫娘はねーだろ」

 みたいな掛け合いをダンキチとランコがやって飛び出していきました。解説します。「物好きもたいがいにしとけ」を英語で言うと「Curiosity killed the cat」になります。だから「ネコ扱いするな」と言い返しました。

 しかしイタリアンマフィアたちは花売りの少女を抱えて逃げていきます。二人は追いかけます。しょうがないので私もその後を追う形となりました。

 しばらく追いかけっこをしていましたが。だんだん引き離されていきます。我々は今日初めて来た街なので地理に詳しくないのです。ついに見失ってしまいました。

 しかしダンキチがすぐ「見つけた」と言ってすぐそこの店に入りました。頼れる男です。その店はおもちゃ屋さんでした。船の模型を買って出てきたダンキチが言いました。

 「メアリー・セレスト号のプラモデル。ずっと探してたんだ。それよりやつらは!? クソッ! 見失ったか……」


 我々3人はベンチに腰掛け。途方に暮れていました。パチ屋も見つからない。花売りの少女も助けられない。いつだって我々は無力です。

 「もう娘は死んだかもな。お前が決めな」

 とランコが私に言いました。選択肢としては『帰る』か『パチ屋を探す』か「花売りの少女を助ける」かです。一番あり得ないのは最後の選択肢です。まず我々と花売りの少女は無関係です。助ける義理が無い。

 しかも敵はイタリアンマフィアです。全員サブマシンガンを持っています。戦ったらハチの巣です。さっきは相手のノリが良かったので助かりました。

 さらに探すとしても見当がつきません。索敵対象が無制限に移動します。地球鬼ごっこです。動かないパチ屋を探す方がまだ現実的です。強いて言うと「港の第三倉庫で裏取引をやってそう」ってことぐらいです。

 でもそんなドラマみたいなことが起こるわけない。やはりここはパチ屋探しが無難でしょう。ということで。決めました。パチ屋を探します。

 と思ったのですが。『港の第三倉庫』という言葉が頭から離れなくなりました。なんか言ってみたいです。だから言いました。ボソッと「港の第三倉庫」って。するとランコが「それだ!」と言いました。我々は港の第三倉庫へ向かうことになりました。


 それで無事に港の第三倉庫に着きました。そしたらいました。イタリアンマフィアと花売りの少女が。どうやらここが決戦の地となりそうです。しかし本当に戦うのでしょうか。相手は全員サブマシンガンを持っています。

 「女王陛下は神が守んなきゃな」「それno futureだろ」

 みたいな掛け合いをダンキチとランコがやって飛び出していきました。解説します。セックス・ピストルズの「God Save The Queen」という歌のサビが「no future」を連呼するところからきてます。

 私は戦えないのであらかじめ用意しておいたチタン合金製のタルの後ろに隠れて見ていましたら。サブマシンガンの弾が二人の目の前で全部蒸発していました。おそらく妖術です。そのままイタリアンマフィアのノドを一人ずつ噛みちぎっていました。一分で全滅です。勝ちました。

 しかしながら。これだけの戦力差があるのなら手刀で気絶させるぐらいにしておけばいいのに。容赦ないです。

 花売りの少女が「助けてなんて頼んでないわっ!」みたいなことを何もしていない私に言いました。きっとあの光景を見た後だから妖怪の二人が怖すぎて強気なセリフが言いづらいのでしょう。その気持ちわかります。

 ダンキチが船の模型を海に浮かべました。私が花売りの少女に怒られている間にさっき買ったプラモデルを完成させていたようです。

 「日本であの世へ行くには船で川を渡るんだ。オレらのナワバリで幽霊になっちゃ叶わねーかんな」

 幽霊船メアリー・セレスト号がイタリアンマフィアの魂を乗せて出航しました。

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