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【怪奇ファイル010】心肺停止から三日後に蘇生した話

 その日は朝から大雨でした。風も強くて線がナナメになっていました。傘をさしても外を歩けばびしょ濡れになることでしょう。こんな日は家から出るべきではありません。

 幸いにも当時の私は無職です。つまり会社に行っても机がありません。納期が迫ったプロジェクトも持っていません。だから好きな時に会社を休めます。よって雨が降ったら休みとします。

 と言いたいところですが。我々いつものメンバーはなぜかパチ屋の行列に並んでいました。びしょ濡れです。おかしいよね。この格好でお店に入ってもいいのか心配です。

 しかしなぜ。このような不可解な出来事が起こってしまったのでしょうか。私はせっかくの休日なので家でのんびりしたかった。朝からカレーを作って夜ごはんに食べたかった。

 そういえば『カレーは腐る』と言いますが。実はわたくし。何を隠そう。生まれてこの方。カレーを腐らせたことがありません。鍋一杯に作って三日間ぐらいかけて食べますが腐ったことないです。

 理由は分かりませんが。予想なら書けます。ショウガと唐辛子を入れるからです。殺菌作用があるので腐らないのかもしれない知りません。

 だって他に何もないもん。何回作っても腐らないもん。みんな「腐る腐る」言うけどさ。たまには私もカレーを腐らせてみたい。

 と私が起きてすぐ今日の予定を考えると同時に一人でブツブツ愚痴っていたら、相棒のダンキチから電話がかかってきました。私を起こす電話です。私は朝起きられないので電話で起こしてもらっていました。

 しかしその日は大雨の音ですでに起きていました。私だってたまには自分で起きる日もあります。起こされないと一生起きないわけではありません。白雪姫じゃないんだぜ。なめんなよ。

 そして電話で「今日は雨が凄いから行かない」と言いました。そしてまた寝ました。そしたら家に迎えに来ました。そして連れていかれました。だからパチ屋に並んでいます。おかしいよね。

 でもそんなことはどうでもいいです。雨の日でも仕事をするのは当たり前。パチ屋に行けというのなら行きますよ。それより問題は花売りの少女のイライザです。

 イライザはパチスロは打たないけど行列待ちのときだけ会いに来て我々とおしゃべりして帰るのが日課です。そして朝食を一緒に食べたりします。

 しかし大雨の日にも律義に参上するなんて。洋服もびしょ濡れです。エプロンドレスみたいなやつです。花売りの娘の服です。

 『なによこの雨っ! びしょぬれじゃないっ!』

 と怒っていました。イライザはいつも怒っています。じゃあ来なきゃいいのに。パチスロは打たないんだから。あとなんか『スペインの雨は主に平原に降るのに……』とか言ってました。意味わかんないです。

 そういえばスペインで思い出しましたけど。昔は『雨の日はパチ屋は出す』と言われていました。なぜなら雨宿りで初見の客が来やすいから。初めて来た客に出玉アピールをするらしい。

 という話ですが真偽は知りません。都市伝説です。よく言われていただけです。時代も変わって現在もそうなのかは知りません。昔のパチ屋は今より繁盛していたので。出玉アピールが過激な時代の話です。

 それよりも『スペインで思い出した』の部分が謎になってしまいました。でもホントにスペインで思い出したのでしょうがないです。そういうのあると思います。

 だってさ。『電流走って閃く』ってよくあるけど。『電気に関することが閃く』わけじゃないじゃないですか。電気が関係ないことを閃くのが普通です。よって別にスペインが関係ない物事をスペインがきっかけで閃くのはおかしくないです。

 という理論を突然思いついたのでみんなに言いたくなりました。だから行列待ちで特に話題もなかったのでみんなに言ってみたら「えっ? 雨の音で聞こえない」と言われました。ホントこの雨邪魔。ムカツクわ。


 雨が邪魔なので我々は一旦雨宿りで近くの喫茶店に入ることにしました。傘をさしていても無駄なくらいのヒドイ大雨なのでここにいるべきではないと判断した結果です。そして我々以外に誰も並んでいないので並ぶ意味がありません。

 4人分のコーヒーを注文したら無言になりました。場所移動した瞬間話すことがなくなりました。あると思います。さっきの理論をもう一度展開する気は起こりませんでした。

 するとイライザが「アンタなんか話しなさいよっ! 例えば都市伝説とかっ!」と言い出しました。するとランコも「よしやれ」と言いました。ダンキチは寝ていました。

 そんなこと急に言われてもね。と言いたいところですが。実はわたくし。何を隠そう。都市伝説の本なら割と読んでいます。つまりその要望はやぶさかではない。

 なのでここは一つとっておきのヤツを披露しようかと思います。それはズバリ『心肺停止から三日後に生き返った話』です。1966年のアメリカのコネチカット州にアンチ・ムーアという女性がいました。

 と話し始めたところでコーヒーが来ました。するとイライザが「そういえば美味しいケーキ屋さんがあるのよ」と言い出しました。そしてランコが「マジでどこどこ?」と言いました。

 つまり。私の話は終わりです。次はケーキ屋さんのガールズトークをするみたいです。ホントこのコーヒー邪魔。ムカツクわ。


 それでガールズトークが始まってしまったので。私は黙って二人の話を聞いていました。なんかショートケーキのショートはショートニング(植物油脂)のことよみたいなこと言ってました。

 盛り上がっていたのですが話の途中でいライザの表情が変わりました。「ショートケーキで思いだしたんだけど……」と深刻な顔で話し始めました。長い話だったので要約します。

 『モグラはたくさん食べる。ちょっと食事が遅れるとすぐ餓死する。モグラはナワバリ争いをする。負けたら地上に出なくてはならない。土の中には戻れない。モグラはほとんど目が見えない。地上に出るとエサが探せない。餓死する』だそうです。

 「ショートケーキ関係ねえな」とランコが言いました。続けて「でも電流走って閃くのって電気に関することじゃねーかんな」と言いました。聞いたことあるぞそれ。

 私がさっき行列待ちで展開した理論です。そして「雨の音で聞こえない」と言われたやつです。つまり。ホントは聞こえていたようです。よかった。とはならない。こいつら嘘つきです。


 そうこうしているうちに10時になったのでパチ屋に行くこととなりました。その前にコーヒーをお替りします。お替り自由なので出発前にもう一杯飲んでおきたい。

 それで。パチ屋に行くのは私とランコとダンキチの3人です。イライザは駅前広場に花を売りに行きます。でも大雨なのでさすがに今日は行かないんじゃないでしょうか。イライザはさすがに休日だと思います。

 と気になったので聞いてみたら「えっ? 雨の音で聞こえない」と言われました。ホントこの雨邪魔。ムカツクわ。

 と言いたいところですが。もう騙されません。「どうせ聞こえてるんだろ?」と言いかけたところでコーヒーのお替りが来ました。ホントこのコーヒー邪魔。ムカツクわ。

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