【怪奇ファイル001】ちょっとこれを言われても信じられない話
結構前の話なんですけど。私が大学卒業後。仕事をしないで毎日ブラブラしてた時期があったんですよ。というか。何を隠そう。定期的にそんな時期があります。あんまり堂々と言うべきではない。隠しとけ。
やる事と言ったら。一番は『職探し』です。だからやりました。でもそれは一旦置いておいて。『パチスロ』もたまにやってました。たまにですよ。どれくらいかな。詳しく覚えていませんが。おそらくほぼ毎日ぐらいです。
それで。閉店まで打つわけですよ。もちろんパチスロを。他に何かあるのか。『不屈の闘志で魔王に立ち向かった勇者の話に胸を打った』と思った人もいるかもしれません。それだと『閉店まで』の部分はどう説明しますか?
それで。通っていたパチ屋が電車で30分です。『通っていた』というほどパチスロは打っていませんが。就職活動で忙しいです。でもそれは一旦置いておきまして。そのパチ屋は歩くと2時間です。
それで。閉店まで打った後に。もちろんパチスロを。夜中歩いて帰ったりもするわけですよ。深夜11時から歩いて家に着いたら1時です。だって明日も暇なので。早く帰る必要ないです。
その日も徒歩で帰りました。すると。10分ぐらい歩いた地点の自動販売機の横に。宇宙人が座っていました。
カラまれると面倒です。絶対困ってるし。どうせ諸事情で星に帰れなくなった宇宙人です。経験で分かります。そんなの映画で何回も見たもん。関わりたくない。下を向いてササっと通り抜けようとしました。
すると予感的中です。悪いことが起こりそうな気はしてたんですよ。なんと。信号待ちのアフリカ象がバックしてきました。ドスンドスンって。超ビビった。ぶつかるところだったよ。
でも大丈夫。ひらりとかわしました。ホッとして目の前を見たら。さっきの宇宙人と目が合いました。そしてボクにこう言うんですよ。『ピピルピッポピュルピュル』ってね。
事情は分かりました。それを聞いてしまったら助けずにはいられない。それが勇者の仕事です。でも私は勇者じゃない。無職のクズです。正直頼られても荷が重い。逆に解決出来たら今度は勇者の立場が無い。
俗に言う『板バサミ』です。どっちに転んでもよくない未来が待っている。私は占い師ではありませんが。この予言はきっと当たるでしょう。すると今度は占い師の立場が無い。
私の行動でたくさんの人が不幸になっていく。自己嫌悪が止まりません。そんなボクを見かねて宇宙人が言いました。『ポルピペッポピピピ』って。
意味が分からないよ。日本語を覚えてから日本に来なさい。と言いたいところですが。意外と熱意で言葉は通じるもんです。少し安心しました。生きていてもいいのかもしれない。
私は生きる気力を取り戻しました。こんなめでたいことはない。生まれ変わった自分に乾杯したい。良いことは続くものです。なんと、目の前に自動販売機があります。飲み物を買って宇宙人と乾杯しよう。
と思ったのですが。そこに広がる光景が。ちょっとこれを言われても信じられない話なんですけど。なんと。恐ろしいことに。どうしよう。だって言っても絶対信じないよ。
まぁ言いますけど。これを話すのがこの記事を書いた目的です。と昔の無鉄砲な私だったら思ったかもしれない。就職しないで毎日ブラブラしてるぐらいの無鉄砲です。
でも今は違う。『あの頃の私』を書いている『今の私』は無鉄砲ではありません。今の私は鉄砲隊の強さを知っています。鉄砲隊は武田の騎馬隊を破りました。鉄砲を持たずに戦場へ行くのは愚かな行為です。
と。一人でブツブツ言っていたら宇宙人にゆさゆさってされました。私を心配してくれるのか。やはり最後にそばにいるのは友達です。ボクが悩んでいると必ず駆けつけてくれる。
私は生きる気力を取り戻しました。こんなめでたいことはない。乾杯したい。良いことは続くものです。なんと、目の前に自動販売機があります。飲み物を買って宇宙人と乾杯しよう。
と思ったのですが。そこに広がる光景が。ちょっとこれを言われても信じられない話なんですけど。なんと。恐ろしいことに。『自販機の下段が一列ずらっとブラックコーヒー』でした。初めて見た。
それは置いておきまして。炭酸ジュースの『なんとかレモン』とかいう名前忘れたやつを2本買いまして乾杯です。
『星を超えた俺らの友情に乾杯!』と言ったら宇宙人が『乾杯!』と言いました。まさかの日本語。あわてて『ピュル!』と言い直していましたがもう遅いです。
そしてそのまま『やまたのオロチの【やまた】は【たくさん】という意味があるので頭が8つある必要はない』みたいな話をしながら駐車場に停めてある宇宙船まで行きました。
最初に宇宙人が言っていた通り。宇宙船は巨大なイモムシの吐き出した糸でグルグル巻きにされていました。これでは星へ帰れません。間近で見て改めて思いましたが。私にはどうすることも出来ません。
しかし人間には言葉がある。人類最大の発明は言語です。言えばわかるかもしんない。私は巨大なイモムシに説得を試みました。
『巨大なイモムシさん。宇宙船をグルグル巻きにしたらサナギになって蝶になります。蝶になるべきは自分です。対象を間違っていますよ。」
すると巨大なイモムシは言いました。
『宇宙船は蝶にはならない』
電流が走りました。この世には『糸でグルグル巻きにされたら蝶になるもの』と『ならないもの』があるのです。チャーシューは糸でグルグル巻きにされても蝶にはならない。宇宙船も蝶にはなりません。
すぐに宇宙人に伝えました。
『宇宙船は蝶にはならないよ!大丈夫だよ!』
冷たい目をしています。『何だコイツ?』と言わんばかりに。さっきまでキラキラした目でやまたのオロチの話を聞いていた宇宙人が。どうやら知ってる知識だったようです。それもかなりの常識。だってよく考えたら私も知っていました。
しかし宇宙人は助けを求めている立場なので文句が言えません。イライラしますが我慢するしかないのです。次の言葉が出ないのです。
やはり最初から無理な話だったのだ。無職の私が巨大なイモムシを説得できるわけがない。贅沢は言わないのでせめて魔法使いだったなら。こんなの魔法でちょちょいのちょいなのに。地獄の業火で糸を燃やし尽くすのに。
『俺……就職するよ』
私はそこで決意しました。正義の心だけ持っていても何も出来ない。人助けをするには力が必要なのです。明日ハローワークへ行きます。未経験歓迎の魔法使いの仕事を探そう。
そうと決まれば長居は無用だ。帰って履歴書を書かねばならない。巨大なイモムシを説得して宇宙船を開放してもらいました。
巨大なイモムシが帰り際に『魔法使いにはなれない』みたいなことを言っていましたが。そこは無視です。虫だけに。
お別れの時間が来ました。宇宙船が開放されたので宇宙人は星へ帰ります。短い間だけどボクらは友達だ。もう二度と会えなくても友達と呼ばせて。最後に宇宙人はボクに言いました。
『ピップル乾杯ピュルピ!』
どうやら『乾杯』だけは言える設定にしたいようです。さぁ明日もパチ屋の行列に並ばいといけないので早く帰って寝よう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?