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不幸な少女アンソロジー「シンデレラストーリーズ」

 不幸な少女が主人公のシンデレラストーリーであること。

 そんなテーマのアンソロジーが、残念ながら中止となってしまったコミティア133で頒布予定…だった…!
 今後の実イベントでも頒布されると思うけども! まずは通販がはじまっている!
 今回、拙作もお囃子隊として参加しておりますので、通販ページを覗いてみてほしい!

 ちなみに試読はこちらから。
 抜き出しの試読を読んだだけでも、いろんな作風のシンデレラがお目見えする予感でわくわくしちゃうね!

 さて、ここからは、みんなのシンデレラストーリーを読んだわたしの感想、というか魂の叫びというかいのちの輝きというか…。
 試読掲載順に感想述べてくね!

以下敬称略

閻魔が町にやってきた/宮崎笑子
 おれが書いたんだよな(大の字)
 舞台は現代かもしれないニポンの片田舎。主人公は、家の事情で男として育てられている女の子・潤。
 人一倍きらきらした服やかわいいもの、少女漫画のロマンスが大好きなのに男として育てられている抑圧でうんざりしている。
 その上、事情を知っている同級生たちからは爪弾きにされており、地味な嫌がらせを受けていた。
 そんな折、東京から季節外れの転校生がやってくる。イケメンだと騒がれる彼は、とあるきっかけで潤と交流を持つようになる。
 しかし、もしかして、ひょっとして、やっぱり、この転校生……。

 …という王道少女漫画展開フルスロットルのラブコメです。
 テーマがシンデレラストーリーとあって不幸な少女全色展開みたいな本誌の箸休め的存在になれればうれしいかな、と思って書いた。
 一足先に読んだ参加者には「休めようと思ってた箸が沸騰して蒸発する」と言われました。????


双花嫁神馬華燭/No37304
 舞台は閉鎖的な、養蚕で暮らしを立てる村。神事である祭りに、桑っ葉(長子以外の穀潰し)の女の子が参加し、御神馬さまに見初められ……。
 という、何かが起こる予感しかしないはじまり。
 文中に挟まれる人々のざわめきや物音の行がとても心地良くて、スッと物語に入ってゆける。
 終始どきどきしながら読んで、ラストシーンでは「えがったねえぇ(号泣)」ってなったけど果たしてほんとうにえがったか? って冷静に考えて、いややっぱハッピーエンドやでえがったえがった、と思い直す。
 静かな語り口調なのに、迫りくるような焦燥も感じる不思議な文体で、わたしはかなり好みだった……。
 読みながら、キーワードをふと思い出し「百合???」って思ってたけど、たしかに百合だった。
 わたしはつくしよりも、辰巳さんが好きかな。古来式のツンデレだった(違うと思うけど)


うつほさまの花嫁/千鳥すいほ
 進学とともにこの村を出て、ルームシェアをしようと約束をしていたふたりの少女と、村の神様・うつほさまにまつわる儀式の話。
 しいちゃんと、雪野姉さんと、空穂と、それぞれの思惑が複雑に絡み合って、結局、田舎育ちコンプレックス……と頭を抱えてしまった。
 空穂の出てくるシーンの描写がわたしは好きだったんだけど、うん、ああ…ってなっちゃった。
 読み終えてからタイトルを見ると、ヴッてなること請け合い。
 そして読み終えてから序盤のほうを読み返すと、「ああ、そっか」ってちゃんと腑に落ちる。
 前半の情感たっぷりの和やかパート(?)と後半のスピード感の緩急がとても心地よい。


恋忘れの薬はない/凪帆
 元奴隷の軍人少女と、悲劇の英雄である青年のすれ違い恋物語。
 青年と少女が、恋に復讐に大忙し!
 って感じの……あのマジで、「血腥い少女漫画」って感じがしました。
 物語のキーとなる「恋忘れの薬」がうまい具合に生きて効いていて、はわわん、ってなった!
 たしかに、血は流れるしめちゃくちゃ血腥い話なんだけど、ちゃんとLOVE成分もあって、城も燃えたけど恋の炎も燃えたって感じ!
 そして、城は燃え尽きたけど恋の炎はどうなるの……!?!?
 っていう、わくわくトキメキ大乱闘~革命の香りを添えて~
 ある意味で王道の少女漫画展開で、カーッ!
 でもちゃんと(ちゃんと?)血みどろで、カーッ!


イタい死体、燃えたら灰/トウフ
 炎上系ゾンビYouTuberの話です。以上。
 これ以外何の言葉も出ないほど見事に炎上する。
 主人公の心の動きが、理解できない一方でしっかり納得できてしまうのが、インターネット物書きウーマンとしての悲しいサガ。
 承認欲求…………(クソデカため息)、みたいなことになるよ。
 グロいのが苦手なので、薄目で読んだシーンもちょこっとあるけど、でもラストシーンが、マジで「「「納得」」」って思った。
 トゥルーエンドって感じがしました。素晴らしい。
 そしてこれはホラーと言うか、まあホラーなんだけど、それよりも怖いものがあると言うか。
 話のあちこちにシンデレラのモチーフが転がっているのも、芸が細かくてにっこりしちゃった。
 これはガチのシンデレラストーリーなので、みんなも炎上するシンデレラに刮目しよう。


それはきっと恋だった/捺
 戦死した兄からの手紙を預かっていた女。蘭州のヒロインと呼ばれた彼女の真の姿とは。
 最初は妹が完全にシンデレラムーブしてたので、お? と思ってたけど、やっぱりそこは一筋縄ではいかぬ。
 戦争の話がメインなので、めちゃくちゃ血腥いし人がバンバン死ぬ。信じられない数の人間が死ぬ。これは仕方がない。
 なのにこんな素敵な爽やかエンド!?
 すごく爽やかなエンディングで、誰も不幸せにはならない(そうかな?)話なので、もしかしてこの作品が真の箸休めなのかもしれない。
 人がバンバン死ぬけど、書き口が終始なめらかなので、あんまり死んでない感ある。(???)


揺籃のヴィオレタ/梶つかさ
 血のつながらない妹を過保護に面倒を見ているヒロインが、娼婦になって妹を精神科にかからせる費用を貯めようとするが……。
 梶さんの作品は複数拝読しているが、マジで「梶つかさが書いた女たち」とすぐ分かる女たちが三人くらい出てくる。
 わたしが一番「梶さんの書いた女だなあ」と思ったのは、……うーん、甲乙つけがたいけど、妹のマリーかな……。マリーは、とある出来事をきっかけに精神が後退しているのだけど、すごく「梶さんの書いた女」感あった。
 でも、ヒロインもほんとうに自己犠牲の上に成り立つ傲慢が、うわ、梶つかさが書いた女……って思っちゃう。
 人々の想いがすれ違ってすれ違って悲劇を生みつつも、人の想いがすれ違うからこそ生きてくる躍動感が素敵なお話だった。


ティアラ/オカワダアキナ
 歯並びの悪い女の子が、売れない芸人のカキタレ(まあ分かりやすく言うとセフレのようなもの)をやる話。
 コミカルで力強いのに、どこか危うい語り口調がしゅんと心にしみる。モロ語もバンバン出てくるけど、性的と言うよりはすごく生活的な匂いがしたのも、この方の文章の持ち味なのかなと思った。
 芸人の那王の気持ちがなんとなく分かるし、ヒロインの気持ちも分かる。嫉妬とかコンプレックスとか、人に対しての好悪を抱えながら生きていく登場人物たちの解像度が高くて好感度も高い。
 文章で「時は経ち○年後…」みたいなの、めちゃくちゃ難しいって個人的に思ってるのであるが、めちゃめちゃ巧くて引いた(別に引いてない)


本身 Benshen/跳世ひつじ
 
三人の女たちの壮絶な生き様を思い起こし書き記す女の話。(だよね?)
 規定の2.5万字中に何人出てくるのってくらいネームドが出てくる。規模としてはもはやインド映画。
 絶対読みづらいと思っていたのだけど、ほんとうに不思議なことに、風景がつらつらと頭に浮かぶのだ。
 わたしはあまり学のないほうなので、おそらくこの物語の本質を理解はできていないのだけど、情景の解像度が高いことはかなりにこにこしてしまった。
 二人目の小公主様の物語が特に好きだったなあ。(お名前の漢字が環境依存文字だったので割愛…)
 ふわふわ幸せパート、最高によかったし、そこからの流れもまさに流れるように自然で、ムッてうなってしまう。


シンデレラは悪霊と踊る/八束
 
あらすじを伝えづらいが、たぶん靴と「幸せ」を巡る話だと思った。とある森で暮らす民族の少女が、かすかに仰いだ夢の話。
 超重量級の右ストレートを防御なしで食らった気分。
 さすがに重たすぎる一撃に、わたしはもしかしてシンデレラストーリーというものの解釈を間違えていたのか? と不安になるレベル。
 2回読んだんだけど、どっちの回も重たかったし血がいっぱい流れてたし人がいっぱい死んだ。(当たり前体操)
 文章の置き方、と言うのか、間違いのない場所に間違いのないものを置いていっている、という感じの隙のない描写がすさまじいリアリティを醸す。
 血腥い描写は完膚なきまでに血腥いし、きらびやかな描写はほんとうにそこに宝石があるかのようだった。


 ほぼすべての作品が流血沙汰なのよ。
 こんなにも血腥いシンデレラストーリー、原作(とされるもの)以外で見たことある? わたしはない。
 でも、このシンデレラストーリーのすごいところは、それぞれの個性がちゃんと生きた作品がそろったっていうところ。
 誰も日和らず自分の作風を踏襲した! って感じがすごくする。
(すみません、このシンデレラストーリーの作品以外を拝読したことのない方が数名いるので、確証はないんですが)

 個人的には、オカワダアキナさんの「ティアラ」と、梶つかささんの「揺籃のヴィオレタ」と、千鳥すいほさんの「うつほさまの花嫁」が好みというか、性癖というか、そのようなものに刺さった。
 わたしが書いたやつも、誰かの好きに刺さればうれしいんだけど。

 と言うか、みんな文章がうまい。(文章がうまい)
 リーダビリティは置いておいて、ほんとうに読ませぢからのある作品がそろっているので、絶対に購入して損のないつくり。損のないというか得しかない。

 そして今回、装丁とか口絵とか、つまり本のつくり自体もめちゃくちゃ豪華なので、そこも要チェックだと思う!
 強い人と強い人がタッグを組んだら強いものが生まれるに決まってるじゃん。


 って感じで、わたしも実物はまだ手に入れていないので、この手にシンデレラのみんなたちさまが転がり落ちてくるのを楽しみに待っています。

 みんな、買って、読んで、わたしとこの興奮を共有してくれ!

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