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唯一の、楽しみ

いつも地獄の話ばかりでは暗くしてしまう(まぁ、実際今も地獄の地続きで明るく笑うことなどは無いのだが)ので、明るい話題を提供しようと思う

病院内での楽しみ…と言うか、一瞬の天国を感じた話…だ

まずは食事…だ
手術後、5日ばかり経ったところで、お粥が普通の米飯に替わり(希望した)完全な通常食に変わった

その日を境に、なぜか腹に食事が入っていくようになった…
その日の食事に、第一の天国を感じた

とは言え、内容的には
・米飯
・汁物(冬瓜かな?)
・茹でただけのキャベツ
・唐揚げ(2個)
・キュウリとワカメの酢の物

ただそれだけ…だ
だが、この日の食事は、一生のうちで5本の指に入る美味い食事だった

なぜか知らないが、物凄い空腹なのだ
昨日までの「何も食べないで構わないや」という状況とは違い、なぜか空腹だったのだ

あの日の食事は、おそらく一生忘れられない

唐揚げ?作ってから時間も経って、所謂ジューシーさの欠片もない唐揚げ
けど、作りたてのジューシーな唐揚げと互角五分に感じる旨さだった

酢の物?
酢の物など、ご飯のおかずになるわけがない
酸っぱいもので飯を消費など、寿司以外には有り得ない
それを打ち崩す味だった…

今から考えれば、これも特に工夫があるものでもないのだ
ごく普通の、酢の物
なのに、やたらと飯が進むのだ

極限状態、極限に追い込まれた空腹で食べる者は、こうも美味いものなのだと認識させられた…
この味は、生涯忘れないと思う。


それと、洗髪だ
手術後1週間、頭など洗っていない
当時は一切気にならなかったのだが、そこに看護師さんが
「頭洗いましょうか?」と

当時は立って歩くことすら満足にできず、起きあがるのがやっとの状態だ
その状態、ベッドに寝たままの状態で、洗ってくれた

どうやったかは正直解らない
ビニールを背中のあたりまで敷かれて、天井を見ていただけだ

そこに、後ろ髪から湯に浸かり、少し持ち上げてくれて、リンスインシャンプーでゴシゴシゴシゴシ…

湯とは、こんなにありがたい物か…
シャンプーとは、こんなに気持ち良いものか…

とにかく、あの日のシャンプーは忘れられない
退屈な布団が天国に変わり、さらにドライヤーまでかけてくれた…
あれも、忘れることができないと思う。

もう一つが「シャワー」だ
これは洗髪から2日ほど経ったときだ
「シャワーも、浴びましょうか?」と

それまで身体は拭いてもらっていたのだが、腕と足、背中程度だった
それが、全身をお湯で流してくれるのだ…

車椅子で運ばれ、椅子に座らしてもらう
42度より少し熱い湯を、シャワーでかけてもらう
「自分で好きなように洗って下さいね?」と、ボディーシャンプーをたっぷり染み込ませたタオルを渡される

そこから、自分の好きなように洗えるのだ…
首回り、背中とお尻の尾てい骨のあたり…
タオルが茶色く変色する…

あぁ、汚れの集まるところは、こんな感じになるのだ…
と…

そして熱いお湯で流してもらう…
流してもらい、もう一度洗って、さらに流してもらう…

温泉に入っているわけではないが、それを越えるような天国をそこに感じた…
そして、肩を貸してもらい立ち上がると、拭いてもらう
最後に、着替えさせてもらい、ドライヤーをかけてもらい、病室に車椅子で運ばれる

決して格好良くない、惨めな格好
けど、本人は天国なのだ…

この3つは、恐らく一生忘れられないと思われる
唯一の楽しみと言いながら、3つも出してしまった…

この3つは、それだけ印象深かった天国なのだ…

そして、天国を少し味わったところで、リハビリに入る…。

もし、気が向いたなら…