川上未映子作『ウィステリアと3人の女たち』感想


なんだかんだnoteで書評というか本の感想も書いてない!と思い立ち、記念すべき1冊目は川上未映子作『ウィステリアと3人の女たち』。

※以下、ネタバレも含まれます。※


川上未映子の作品は初読みだった。装丁の美しさに惹かれ購入したが、読み進めるうちに装丁よりもさらに美しく甘やかな情景が待ち受けていることを私は想像もしていなかった。

この物語は4編の短編集であり、乱暴に言ってしまえば女性たちの物語であるともいえる。ほぼ男性不在だ。同窓会で、デパートのシャンデリアの下で、森の湖畔で、藤の花咲く屋敷で、女たちが女たちについて考え、ぶつかり、愛をいだき、愛を語り、記憶を辿る。

子どもが欲しい女、母を亡くした女、同級生の女友達を無くした女、女と別れ話をする女、愛した女性に思いを伝えられないけれど、彼女との子どもが欲しい女。

つかみどころのない、しかしするすると読めてしまう散文的な言葉のつらなりの中で、印象的な情景がどの短編でもくっきりと浮かび上がる。それらは時に恐怖を含んでいたり、泥臭かったり、(「シャンデリア」のタクシーの運転手からハンカチを借りるシーンだ。私はこの短編の中の「救い」のシーンだと思った。デパートのようなぴかぴかとしたものはないけれど、泥臭く、しかしいちばん頼れる日常の救いがここにあったと思っている。)信じられないほど妖しく美しかったりする。(表題でもある「ウィステリアと3人の女たち」の最後のシーン。藤の花が雨に濡れた体いっぱいについている。現実に見たことはないけれど、どうしてこうも美しいシーンを書けるのだろう。)

つかみどころがないのは、時々問いが随所にちりばめられているせいもあるかもしれない。答えようのない存在そのものを問うかのような問い。時間や記憶が交錯する中で、彼女たちは何かをつかみ取ろうとしている。記憶か、愛の言葉か、贖罪のようなものなのか、現実か。つかみとろうとする彼女たちを、美しい情景やシーンとともに、読者は追いかけていくこととなる。

私は彼女たちのことをもっと知りたかった。彼女たちの愛の言葉を、どうしようもなさを、弱さを、そして希望を。

藤の花の香り、森を歩く少女たちの声、タクシーの中の他愛ない会話に流れる穏やかさ、ホテルで過ごす夜の茫々とした時間、そういうものを味わうことができてしまうこの短編集。ヴァージニアウルフへのオマージュも込めているとのことだけれど、私は残念ながらウルフを関連させた話はできないのが悔しい。


川上さんの作品はまだひとつしか読んでいないけれど、他の作品も読みたい。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?