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読んで書いてを繰り返して。

薄く眠って6時に起きた。
娘を習い事に送る電車で、少し眠る。壊れたエアコンみたいに、体温がうまく調整できないけれど、浅い夢を見た気がする。

娘が動画を見たいというので、スマホを貸して、本の続きを読んでいた。串田孫一の『黒い牝牛』がひたひたと沁みてくる。気づいたら自分の目の前にその黒い牝牛が現れている。

あの大きな黒い牛はまだいきているだろうか。長い間黙って私を慰め、私もまたその鼻面を撫でては慰めてやった、あの老いていつも淋しそうにしていた牡牛は、死にはしないだろうか。

晩い秋に、しめった農家の床から脚をのばしに出て来た蟋蟀(きりぎりす)が、牛小舎の敷藁で、いきなり甲高い歌を歌いだしても、うるさい蠅が、大きな背中をいい遊び場にしてしまっても、牛は動こうともせずに、だぶだぶの喉頸を籬(ませ)にすりつけて、じっとまどろんでいた。あの牛が死んでしまっても、頸の下にあった横木は、いつまでも鼈甲色になって光っていることだろう。

黒い牝牛・串田孫一

子どもの頃父の実家の祖母の家で、そっと宴会を抜け出して、露に濡れた草原を歩いて冷たくなった靴下を感じながら牛舎に向かった。木製の古い牛舎に身を隠すように入ると、自分より遥かに大きな牛の、大きな顔で目玉がぎょろぎょろと動くこと、ぶふーっと鼻息がところどころから聞こえてくる。
一頭一頭見ていくと、目があえば静かになって触らせてくれる牛が何頭かいて、鼻先の湿ってすこし乳臭い息を吹きかけられながら短い毛に覆われたたぽたぽとした柔らかな頬を撫でる。

名前をつけた仔牛が雌ならば次に見かけたらわからぬほど大きくなること、雄ならば次には見かけないこと

堆肥置き場に捨てられた胎盤のぬめらかに光っていたこと

しまっていた記憶の引き出しがパタパタと出されて、蘇る。良い文章は、こういうことができるのか、と思う。全文無駄なく美しい。

東北での一時的な暮らしの話なのだけれど、どこだ?と思って後の解説を読むと、串田孫一は戦時中山形の新庄に疎開していたそう。

雪かげの大きくうつる純白の雪原を村の子供たちが馳け廻る。雪がしまって子供たちの足跡はつかない。

黒い牝牛・串田孫一

足跡はつかない、こんな表現思いつかない、けれど情景がしっかり浮かんでくる。

寺田寅彦の『子猫』も流石の洞察力とうえええってなる展開でしたが、串田孫一が私の中では珠玉でした。あと三遍で読み終わり。どれも深く感じ入る。

読んでいた『乱と灰色の世界』最終巻読み終わり。友達に予告されていた通りにダラダラ泣く。ハンカチではなくタオルで顔を拭う。
本筋も良いのだけれど、所々の小さな台詞にぐっとくるところがある

お前の気持ち わかるやついっぱいいると思うぜ
俺まあまあ友達いるけど
どんなに仲良くてもそいつのこと 気に入ってるって気持ちしか 俺のもんじゃねーのかもなって

乱と灰色の世界・入江亜季

本当に
なんでもねーんだよ
なんでもねーっての
だって好きだから
なんでもする
だから泣くなよ
もっと笑えよ

乱と灰色の世界・入江亜季

漫画の凄さは絵からびりびり何か香り立つようなものがあること
魔法が本当にあると思わせてくれること、世界の美しさを信じられない時に信じられるようにしてくれること。
ここ数日食欲落ちてしまったのだけれど、本を読んだらお腹が空いて一人焼肉。冷凍していないハラミは口に入れた途端体が傾くほど美味しかった。(牛の話を読んで書いて牛を食らいます)
娘のお迎え、今日は風のない中を漕ぐようにして歩く。昼間はまだまだ暑くてデロデロに溶けそう。
緑道に、アオスジアゲハとカケス。両方好きな色。

祭囃子の音が聴こえてきた。例大祭の時期なのだ。道路を人の乗った大きな太鼓や、神輿、山車が行く。太鼓の音は雷によく似て、豊穣を司り、穢れを退ける音。

夕方に近づくにつれて、風が吹き、その温度が徐々に下がっていくのが手に取るようにわかる。夏ではない、と何度も繰り返している。

昨晩の言葉たちはいささかメルヘンがすぎたかな、と読み返して思う。私の言葉の使い方がよくないのかもしれないし、誰も悪くないのだろう。ただ、もうこの庭には立ち入らないで欲しいと猫が毛を逆立ててつま先立ちで威嚇する様に体が緊張するのだ。頭より体の反応が先になってしまったものは、なかなか覆せず厄介だ、と思う。ただそれは、たいてい頭で考えるより正しい。

風が吹くたびに、網戸にカーテンがわりの古い上布が張り付いたり離れてゆらめいたりする。

今日、本を読んでいて、書くためには読む必要があるのだと、このごろ気づきました。読んだりどこかに行ったり、日常を一つ一つ踏みしめる様に生きること。うまく出力できているかわからないけれど、とりとめなく書き綴る日常を、読んでくれてありがとう。

そちらも残暑厳しいかな、くれぐれも体調に気をつけて。おやすみなさい。


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