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一人じゃないから一人がいい。沼津港に行ってみた。前編
沼津に行こうと思い立って、Googleマップに入力する。そうだった、この感じ、旅に出る前のこの適当で軽やかな感じを私は愛していたと思い出した。
沼津への目的は二つ、「沼津深海水族館」と「海鮮丼」。その二つ。
夜の寝かしつけまでに帰るとして、7時から19時までの12時間。
どうやら小田急線の最寄り駅まで自転車で行って、そこから新百合ヶ丘で乗り換えて小田原、熱海から沼津が最短ルートのようだ。
ざっとパッキングをする。旅慣れた友人のパッキングを参考にする。財布と携帯と鍵に加えて
イヤフォン(友人はヘッドフォンだった)、化粧ポーチ(化粧品はほぼ入っていないリップクリームとビクトリノックスのマルチツールと薬入れ)、タオル(MOKUの乾きやすいやつ)、ティッシュ
それに、寒い時用に薄手の撥水パーカー、折り畳み傘、薄手のシルクの大判ショール、カメラ、充電池。いちばん大切なのは本。いつも忘れて手持ち無沙汰になるので、三冊持っていくことにする。
子供達の朝ごはんを準備して自分も朝ごはんを食べる。
歯を磨いて日焼け止めを塗り、帽子をかぶってスニーカーを履く。
出発する車を見送って、戸締りをして家を出る。
自転車に跨ると、ゆっくりと漕ぎ出した。
途中、朝日を浴びて気持ちよさそうにしている花々が目に入る。
春が花の季節と言われるけれど、初夏のこの時期もなかなか見事だ。
四季それぞれに違う花をみることができるから、花の季節は全てだなと思って写真を撮ったりしつつ坂を登った。
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自転車を駐輪場に停めて、駅のホームへ向かう。ほんとうにこれから沼津まで行くんだろうかと実感の伴わないふわふわした気持ちになった。
それを落ち着けるように本を読んで、乗り換え。
ぐんぐんと電車は速度を上げ、気づいたら鶴巻温泉の駅直前の山々の青さに心打たれる。
水の張られた田んぼのしずけさ、ホームに立っている人々。私が動かなければ目にし得なかったものの数々が、窓の外に流れてゆく。
小田原でまた乗り換え。
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釣りに行くであろうお爺さん、外国からの観光客、家族連れ、日常にこの路線を使っているであろう様々な人がいた。電車が来て、座席に座る。それぞれの路線で、少しずつ硬さの違うシートと、車内の匂い。
根府川という駅に近づくと、視界が急にひらけて海。なんてことだろうか、と呆然とする。周りの目を少し気にしながら、シャッターを切る。それくらい海だった。
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真鶴は思ったより街で、貝を拾いたいと言ったら職場の先輩が教えてくれたのはここだったのかと理解した。海の見える街。
熱海は学生時代に部活の仲間と一緒に卒業旅行に来た。温泉や夕飯の記憶はほとんどなくて、秘宝館に行ってゲラゲラと笑っていたことや、夜遅くまで飲んでみんな潰れて、朝が来た時の障子の白さみたいな、そんなくだらないことばかり覚えている。
湯河原は昔付き合っていた人に連れてきてもらって、梅を見たなとか、あれ、梅を見たのは違う時か、と記憶が混線したまま窓の外の景色と一緒に流れてきて、そっと目を閉じた。いつの間にか眠っていて沼津に着いていた。
沼津駅の観光案内所で、「沼津深海水族館に行きたいのですが」と係の人にきくと、ちゃきちゃきとチラシを手渡してくれて横断歩道を渡った1番バス乗り場から乗ればいいと教えてくれた。
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バスが来るまでにもらったチラシを見る。どうやら水族館の周りは観光地で、たくさんの海鮮丼のお店や食べ物屋さんがあるらしい。観光船、ということばが目に入って、スマホで調べると遊覧船が一時間に一本出ていて、そこの乗り場のひものセンターのサバ焼きおにぎりがとても美味しいということだった。
バスが来て、いちばん前の席に座る。
ぼんやりと外を見て、古い幾つもの看板や、昔からあるであろうブティックと、その合間に埋めるようにあるおしゃれなバーの看板を見る。潰れてしまったビジネスホテル、にぎやかなパチンコ屋さん、いろんな歴史を降り積もらせてきた街。
しばらく行くと、葵の花が歩道の割れ目からよく咲いていた。ここの植物は紫陽花も含めて、皆どこか奔放だ。
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ガタンと音がして、バスが何度か止まって、途中大きな橋を右目に見た。河口、ということばがぴったりな、川と海とが入り混じるところにかかる大きな橋。
そうして、バスの運転手さんの小さなアナウンスが聞こえて
終点沼津港にたどりついたのだった。
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