ふくろういます。
生活につかれて、夜更かしをして、行き場のない苛立ちが体の中をちくちく刺していた。
よくないとわかっているのに、手のひらの小さな灯りを見つめる。自分とは関係のない遠くのニュースが、さも面白いことのように感じられるとき、私は疲れているんだな、と思いつつスクロールする指が止められない。ちくちく。
ふるる と手のひらの灯りが鈍く震えた。
ご近所さんからのメッセージだった。
『ふくろういます』
ふん?と思って、ああ、と思った。
ご近所さんのお庭は小さな公園くらいあって、竹林と大きな木が数本植えられ、きちんと草刈りされた草原がぽっかりと拓けている。
そこを狩場や休憩に使う鳥たちがいて、この時期フクロウの仲間である、アオバズクが渡ってくるのだ。
この土地に引っ越してきて、驚いたのは鳥たちの多様さと近さだった。
今年はまだ聞いていなかったなと思いながら、わくわくして窓を開ける。屋根越しに竹林の先っちょを眺めながら、夜に目を凝らす。
聴こえない。
目を閉じてもう一度夜に耳を澄ます。
ホゥ ホゥ ホゥ ホゥ ホ ホゥ…
独特の、何か古びたオカリナを吹くような声が聞こえる。しばらく聞いてから、隣の子がしっかり寝ていることを確認してから、ジャケットを羽織り、そっと階段を降りて長靴に足を入れる。裸足だからひんやりとする。
砂利を踏みながら、竹林の元に立つ。
ホゥ ホゥ ホゥ ホ ホゥ …
姿は見えないけれど、また今年も来たのだと思った。年々彼らにとって住みにくくなる街であることは確かだけれど、この狭間のような場所を求めて小さな生き物たちはやってきている。
小さな羽虫が舞っている。夜の竹林はザザザザと風に揺れて、それ自体が生きている気配に満ち満ちている。
しばらくすると鳴き止んで、羽音もせぬまま違う場所に移動したようだった。
心のちくちくは、いつのまにか風に攫われていた。
やさしい、アオバズクの鳴く夜のこと。
いつか、きっと思い出す夜だと思う。
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