No.5「針」(2021/6/6)
太線で描かれた町に来ている。
町といっても山間の、四方を山に囲まれた擂鉢状の小さな集落である。規模は村にも満たないが、昔の名残で「町」と呼ばれている。
この町を訪れる手段は当然バスだけである。細い毛筆で描かれた道路の上を、ゆらゆら走るバスから落とされないよう、集中しているうちに辿り着く。
バスが行ってしまうと、あたりは町の音だけになる。バス停の足元にはコンクリート三面張の川がどうどうと流れ、町の景色の境界になっている。
こちら側の山には広葉樹が茂り、暖かな木の葉ずれが聴こえる