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No.6「キ」(2022/7/4)

小さい人たちは小山の陰に住んでいる。
手をたたくと、無音の登場曲に乗って現れる。

小さい人たちは小花柄のワンピースを着ている。
ワンピースの青色は褪せ、桃色の小花はドライフラワーになっている。
 
小さい人たちは長い金髪である。
毛量は少なく、地肌が白く透けて見える。
 
小さい人たちは5人いる。
3人は真鍮の乳母車にギュウギュウ押し込められている。
1人は乳母車の前を若々しく飛び跳ねながら、どこにもいない観客を扇動する。
後を歩く1人は苦々しく乳母車を押し続ける。

小さい人たちは罪悪感を抱き続けている。
彼女らはとても長い間ここにいるから、罪悪感の正体を見失っている。
 
・・・・・
 
小さい人たちは谷底を目指している。
谷底には教壇があり、その上で大きい人が待っている。
 
小さい人たちは教壇の前で立ち止まる。
前後の2人が乳母車をひっくり返し、詰まった3人を振り落とす。
3人が立ち上がるのを待ち、大きい人が雲母をばら撒く。
雲母は直径1cmに満たない程の大きさで、風にキラキラ溶け落ちる。
 
小さい人たちは雲母を丁寧に拾い集める。
拾った雲母は乳母車に入れてゆく。
大きい人はかっきり乳母車一杯分の雲母を用意している。
 
小さい人たちは鼻歌を歌う顔をする。
聴こえないメロディーに乗り、雲母はどんどん溜まっていく。
乳母車が満杯になると彼女らの罪が赦される。
 
小さい人たちは金髪をキラキラ振り乱す。
年月に梳かれた金髪は網になり、風に溶け残った雲母を捕まえる。
 
小さい人たちは乳母車の上で雲母をふるい落とす。
雲母は山盛りになり、乳母車からキラキラあふれ落ちる。
大きい人が眉を顰める。
 
・・・・・
 
小さい人たちは5人で乳母車を押してゆく。
満杯の雲母をこぼさないよう、瞬きもせず丁寧に押してゆく。
谷を登りきったところで乳母車をひっくり返し、小山をつくる。
 
小さい人たちは小山の陰に帰る。
大きい人が幕を下ろす。


とどまる旅の恐ろしさ、の夢。

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