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人形狩り人形と魔窟の主(#20)

承前

曲折はあったが、僕らが事務所を構えるビルまで戻って来ることが出来た。まず相棒のメンテナンスをしなければ。今回は戦闘によるダメージは皆無だが(それでも僕自身のダメージは甚大だ)弾薬と推進剤の補充、関節可動域の点検、外装のクリーニングなどは出撃から帰投する度に必ず行われなければならない。常在戦場。この時代、この国では、いつ戦いに巻き込まれるか分からないのだから。……それが終わったら仮眠を摂りたい。これからは胸に宿った❝青い炎❞との折り合いを付けて生きる術を探さなければならないだろう。そして───❝死の影❞。異次元からの殺し屋、恐るべき幻影。ヤツに怯えて残りの一生を過ごすというのは論外だ。死神に死をもたらす術があるだろうか?分からない。まるで雲をつかむような話だ。そんなことを考えながらエレベーターに揺られていると隣に立つ相棒が口を開いた。

「事務所から生体反応だ。何者かが待ち伏せしていると見ていいだろう」

まずい。非常によくない。敵だろうか。だとすれば今の僕らは疲労困憊、満身創痍だ。もしも依頼人だとすれば、やはりよくない。四本足の相棒の姿をお見せすることになる。それとも、本家の人間が相棒を連れ戻しに来たのであろうか。『やはり、お前に我々のオートマトンを託すに値しない人間だった』とでも言われれば僕としては反論のしようも無い。考えている間に事務所のドアの前までたどり着いてしまった。悩んでいても仕方がない。相棒を少し遠ざけてからドアを開く。呼吸を整える。威厳を持って対応せねば。訪問者の正体は果たして───。

「どなたかな?私の事務所に何の……?」
「ケンペレンさん!」

管理人さんだった。理解が追い付かない。彼女の姿を借りた死神ではないだろう。相棒のセンサーは生体反応を確かに捉えているのだから。

「怪我はございませんか?よくぞご無事で……」

体をぺたぺた触られる。両足に激痛が走るけど僕は五体満足です。

続く

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