ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第151わ「死神の❝ゲーム❞」
思えば遠くへ来たものだ。一年前の自分に「お前は吸血鬼とチェスをする運命にある」なんて言ったら信じてもらえるだろうか?きっと答えは❝否❞だ。
「最初の一手は?」
俺は「E4」とだけ言い放つ。キングの前に置かれたポーンを二歩前進させる手だ。果たして相手は、どう出るか。
「……いーふぉー?何ですか、ソレ」
衝撃。チェスそのものが児戯と見なされる吸血鬼の社会には記譜法というものが存在しないということなのか。よくよくチェス盤に目を凝らす。確かにAからHのファイル名も、1から8のランク番号も記されていなかった。
「ダンナの番です。……指さないと対局時計は止まりませんよ?」
仰向けの全身に恐るべき冷気が広がっていく。退場したはずの二匹の人間狩りがいつの間にか俺を見下ろすように立ち尽くしていた。その人間狩りどもの身体が灰化して降り注ぎ、俺が詰め込まれた棺桶を刻一刻と満たしつつある。恐るべき砂時計、もとい灰時計だった。
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