ファイナルクエスト伝説 はぐるま王と、ねじまき勇者(原題:Dungeon Robot VS Quest Machine)

「これで終わりだ」

魔王が叫ぶと、胸の獅子から宇宙の炎が吹き荒れます。燃え盛る炎が恐ろしくはないのでしょうか、勇者はどっしり構えて微動だにしません。

「勇者さま、危ない」

慌てて飛び出した魔女が両の腕を天に掲げると、絡み合う螺旋を描いて虚空から双魚が、二匹の巨大な鯉が出現しました。鯉が悠然と空中を泳ぐと、その軌跡からは澄んだ水が滝のように迸って獅子の炎と拮抗するのでした。

「やはり出したな。私はそれを待っていたのだぞ」

ぜえぜえと肩で息する魔王が指を鳴らすと、馬車ほどの大きさの宝瓶が奈落からせり上がって来ました。色とりどりの宝石が散りばめられた宝瓶を美しい魔王の娘が十二人がかりで難儀そうに構えて、その朝顔のように広がった大きな口を勇者に向けました。

「宇宙の稲妻を受けるがいい、水浸しの勇者よ。愚かな我が子よ」

発射の合図に振り下ろされた魔王の腕に何かが絡みつきました。それは勇者の繰り出した金蠍の鞭腹剣でした。鞭のような剣が、魔王の腕をちくちく苛みます。魔王と勇者の壮絶な綱引きが始まりました。魔王は威厳に賭けて抗いましたが、得体の知れない勇者の力には敵いません。星雲めいた気体が周囲に満ちると、両者の姿が稲妻に消えるのを魔女は確かに見ていました。

「……それで、勇者さまはしぶとく生き残ったということですか」

地の底に沈みゆく魔王城を見下ろす断崖に、呆然と立ち尽くしていた魔女の隣に満身創痍の勇者が現れたのは、少し後のことでした。あの場をどうやって切り抜けたのか、魔女は何も聞きませんでした。きっと勇者は「体力で耐えた」としか言わないからです。

「……クエスト達成です。王様に報告しましょう」

勇者の表情は晴れません。それは報酬に惹かれて、とある伯爵から迂闊にも引き受けてしまった最大難度の最後のクエスト「エルフの森を全て焼け」が、お皿に残された苦手な野菜のようにして勇者の心に重くのしかかっているせいでした。

(続く)

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