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ぼくは(狂った)王さま #96

 お城の壁から取り出したアツアツのポークチョップを咀嚼するアラカを眺めながら、肉食は仏教徒の戒律に反していないのだろうかとおひいさまはぼんやり、とりとめのないことを考えるなどしていました。いよいよ明日に迫った聖誕祭を前にして、おひいさまは大臣や大半の兵士に今日は特別に休みをとらせています。きっと賊や謀反者が何かしでかすとしたら、それは民衆が浮足立つ明日であろうと踏んでいたからです。

「だから今日の私にはアラカしか頼れる兵がいない。よろしく頼むぞ?」

 なんだかんだ言って、アラカも「お前しかいない」とか「お前なら出来る」と頼られれば悪い気はしないのでした。どうやら、何か頼まれれば深く考えずに引き受けてしまうのは、ぼうけんしゃの習性というか本能に近いものがあるらしいという、おひいさまの推量は的中した形です。これは使いこなせば便利ですが、利便性の裏には得てして危険という無二の親友がついて回るものなのです。それならばアラカの予定は常に具体的な命令で埋めておかなければ、いつか誰かに唆されて悪事の片棒を担がされたりすることも十分にあり得ることだとも言えるでしょう。そんなことを考えながら黙々と肉料理を口に運ぶアラカの動きが不意に止まったのを見て、おひいさまは心の中を見透かされたように思って内心は穏やかではありませんでした。

「……アラカ、どうした?」

 食べ物が喉に詰まったのでしょうか。おひいさまは腰掛けていたベッドから慌てて立ち上がり、暖炉の前に陣取って料理を平らげるアラカの背中を叩いてあげようとしました。その時です。

「嵐が来る」

 アラカが何かを呟くやいなや、城下町の賑やかさが遠ざかるような感覚がして、おひいさまは動揺しました。何者か猛吹雪を伴いながら天守閣に、そしてアラカがおひいさまを守る寝室に近付いているのを二人の第六感が捉えていました。

「こんばんは、アラカ君。それからおまけのおひいさま」(続く)

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