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ハンティング・ビトレイヤル(邦題:おれだけの四十九日間戦争)

初めに知覚したのは全身を包む耐えがたき寒さ。その次は暗闇、そして静寂。おれは身動きもとれない閉所に押し込められていた。察するに水中ではない、地中だ。それで全てを思い出した。おれは死んだのだ。魔王の娘、死の乙女の瞳を正面から覗き込んで即死だった。次に会うときは問答無用だ。怒りと共に全身に活力が行き渡る。外傷が無いのは不幸中の幸いか。一刻も早く勇者と合流しなければ。そこで当然とも言える疑問に思い至る。

(何故おれは埋葬されている?)

旅の途中で仲間でもあり主君、何より我々の身元保証人でもある勇者が死ぬ度に教会に立ち寄り、高位聖職者の祈祷によって復活しているのを何度か目にしている。他の仲間が倒れた時も然りだ。

(おれが異教徒だからか。異民族だからなのか。おれは用済みということか)

泥土を掻く腕に更なる力が込められる。視界に光が差し込んだ。顔に付いた土を払う間も惜しい。おれはおれの墓石を打ち負かして地上に這い出した。墓碑銘には「役立たず、ここに眠る」と彫られていた。心臓が止まりそうだった。死んだ仲間を弔う為のものではないことは明白だ。……勇者が魔王に負けたのか?おれを埋葬したのは魔王の手勢だろうか?真冬の夜空に浮かぶ月を見上げれば銀色。宮廷に仕える魔術師の一人が現代の魔王を名乗って王家に反旗を翻した五年前の、あの夜から月の色は赤かった。それが今は元通りになっている。

「やはり再来者として現世に迷い出ましたか、狩人殿」

地中の冷たさよりも何倍も冷たい声がおれの鼓膜を打ち据える。おれと同じく勇者を支えた仲間の声。勇者の旅立ちに同行し、彼を支え続けた❝世俗の聖女❞が這ったままの俺を見下ろしていた。誰よりも見たい顔だった。誰よりも聞きたい声だった。こんな状況でなければの話だが。仲間の痛手を癒す奇跡でおれを助けに来たのではない。不死者退治の専門家としておれの前に立っているのだ。

(何故おれは蘇った?)

(続く)




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