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ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #2

(承前)

申し訳ない。今からウラクラド伯爵と戦わなくちゃいけないっていうのに緊張感が足りなかったな。うん。ドナの淹れてくれたコーヒーは美味い。……そんな思いつめた顔をしてどうした?そっちこそ少しはリラックスした方がいいんじゃないか?何だって?この戦いが終わったら大事な話がある?

「まだ寝ぼけているんですか?ていうかドナさんって誰です?ダンナの交友関係は全て洗っているので実在する人物でないことぐらいは百も承知ではありますけど」

コーヒーの熱、味、風味だけを残して世界の全てが剥がれ落ちた。ここは大聖堂ではなかった。倒すべき伯爵もいないし、パートナーの女エクソシストも同様だった。俺は、長い夢を見ていたというのか。信じられずに渡されたばかりのコーヒーを啜る。少しも美味しくなかった。

「むっ。いいんですよ、ニンゲンの嗜好品なんて、美味しくたって不味くたって成分が大幅に変わるワケでもないでしょうに。そんな事より、今日はどうやって過ごします?まだまだ休暇は残っていますけど。退屈だったら❝ゲーム❞に復帰しちゃいます?一体でも多くハントマンを仕留めれば、それだけ❝ゲーム❞の終わりは早まることは間違いありません。この街の平穏無事を祈るなら……」

長く苦しい戦いは終わった。人間の命をパンのように消費し続けたウラクラド伯爵にも今まさに最期の瞬間が訪れようとしていた。俺が囮となって、ドナが銀の弾丸を撃ち込む。最後に二人で吸血鬼の心臓に杭を打ち込む工程は、今までの吸血鬼との戦いと何も変わることはなかった。変わるのは、俺たちの関係だ。ドナはヴァチカンに戻って悪魔と戦う日々を続けるであろう。そして俺は元のつまらない男に逆戻りだ。二人で過ごした七年間の日々が走馬灯のように思い出される。俺の青春はドナとの青春だった。思わず苦笑いしてしまう。結局、俺は彼女を異性として見ていたのだろうか。本当に、色々なことがあったものだから……。

(続く)

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