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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第112わ「待ち草臥れる者」

(前回までのあらすじ)遂に始まった❝ゲーム❞の本選。初戦の相手は吸血鬼にとっての致死の猛毒である、白木の杭を破城槌めいた質量で扱う「対ハントマン特化型ハントマン」であった。普段ならば一蹴できる実力差の相棒であったが、最上級の防具であるところの❝魔王の翼❞と呼ばれるマントを高遠少年(急に半裸になったうえに幼児退行まで引き起こしてしまったのだから無理も無い)に貸し与えていた為に思わぬ苦戦を強いられる。それは❝インセンス❞と呼ばれる人間の脳を変容させうる恐るべきガス兵器を用いた分断工作によるものであった。高遠少年を守りながらの消耗戦を強いられる相棒であったが、しかし❝魔王の翼❞の加護により、脳への影響が対戦相手の予想を下回っていたせいか、恐れを忘れて立ち上がった少年の無謀なる反撃によって形勢は逆転。最後のトドメとなったのは数日前に「弱い相手にしか効かない」と相棒がこぼしていた氷の杖であった……。

(承前)

一難去ってまた一難。とは言え、最上位存在は❝ゲーム❞の外側、我々は内側に生きる者だ。言うなれば、檻を隔てた人間と猛獣のようなものであろう。

「……きみもしょくじのじかんだね。わたしはおいとまさせてもらうよ」

それだけを告げると炎のような姿が闇夜に溶けるように静かに消え失せる。はて、相棒の食事とは何だろうと思ったのは一瞬のことだった。虚空から血塗れのズタ袋が出現、嫌な音を立てて地面に落下した。まさか、この袋は。

「……そういうことですので、少しだけ後ろを向いて待ってていただけますか?十秒ぐらいで済ませますので」

このズタ袋の中身は。たった今、倒したハントマンのパートナーなのか。

「そういうことです。予想外の苦戦で私もお腹がぺこぺこです。だから、あっちを向いて大人しく待っててくださいね?」

いや、俺は目を背けない。我々が勝ち残ったせいで、俺の代わりに食い物にされてしまう人間の末路を見届ける義務がある。

「そうですか。分かりました……。ところでダンナが羽織っている私の外套ですが」

ああ、良いマントだ。暖かいし、良い匂いがするし、肌触りも最高だ。ずっと身に着けていたいぐらいに。

「それは結構。もう少しだけ貸したままにしてあげますよ、ええ」

何だそれ、交換条件のつもりか、と問い質すことは出来なかった。マントが意思を持つかのようにバタバタとはためいた。何かが起きる、そう思う間もなく俺の上半身が相棒のマントによって拘束されたのである。この手口、妖怪のアニメで見たことがあるヤツだと簀巻きになって地面に転がりながらボンヤリと考えていた。俺に出来ることはそれぐらいしか無かった。何も見えない。聞こえない、喋ることも起き上がることもままならない。それでもいいと思えるぐらい、相棒のマントは心地よいものであった。

「……はい、終わりましたよ。いつまで転がっているんですか?さっさと起きてくださいね」

……秋の夜長は更けてゆく。

(続く)

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