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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #11

そして僕の忍者の寝物語が始まった。ずばり題名は「ももだゆう」。来年には元服する男子におとぎ話も無いだろうと思う。しかし忍者が言うには、これは『最後の侍』と、その妻である『最初の忍者』の物語であるらしい。

「……ところで前回は何処までお話しましたっけ?」

話す方がこんな感じでは先が思いやられるというものである。確か、力を合わせて海底から国土を引き上げた国父と国母が、色々あって夫婦喧嘩の果てに、大岩で隔てられた生者の国と死者の国の支配者になったところまでだ。

「そうそう、そうでしたね。ええと、国父は国母に言いました。『もう、お前を愛しているかどうかわからない』と……」

僕は心の中で居住まいを正した。どうやら子供には聞かせられない話が始まる気配がしたのだ。

「国母は国父に言いました。『そんな事を言うならテメーの国の民を一日に千人は殺すからな! 考え直すなら今のうちだかんな!!』

忍者の演技に熱が入る。気の強い女性が愛する伴侶の心変わりを責める声というのは、こんな感じなのかもしれないと思わせる怪演であった。必然的に部屋の隅に転がされている姉上の視線が刺々しいものになるのを僕は感じ取った。夜はお静かに。

「しかし国父は威厳を持って言いました。『然らば私は、日に千五百の産屋を建てよう』負けじと国母は言いました。『アタシは二千人を殺すわ』

それは酸鼻極まる泥仕合であった。個々人の意地の張り合いで民衆を振り回すのは支配者としてどうなのだろう。

「それから国父は必死こいて全国津々浦々に産屋を……建てることは遂になかったのでありました。というより、それどころではなくなったのです」

国母の呪いであろうか。地震、雷、火事、それから飢饉に疫病、そのどれかを口実にしたいくさでもあったのかもしれない。

「いいえ。冥府の女王となったかつての国母は早々に地獄戦士ヨモツイクサどもを生者の国に差し向けて来たのです」(続く)

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