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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2020年7月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第153わ「四騎士の❝ゲーム❞」

(承前) 吸血鬼の貴族が人間の遊戯にどれだけ精通しているものだろうか。ここは人類の研究によって確立された定跡を信じて序盤を切り抜けるしかあるまい。何より今の俺には悩む時間も許されないのだから。キング側のナイトを中央に向けて前進させる。前進した敵のポーンを狙う一手。しかし……。 「センター(中央)は譲れません。私もナイトを前進させましょうか」 クイーン側のナイトが前線に躍り出る。敵のナイトに狙われたポーンを自分のナイトで守る一手だ。俺もポーンを守るべくクイーン側のナイトを

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第152わ「いざ、電撃戦(ブリッツ)」

(承前) 二匹の人間狩りが俺を見下ろして微笑んでいる。心の底から、楽しくて楽しくて仕方がないとでも言いたげに。降り注ぐ灰は止むことを知らない。 「その灰、あまり吸い込まない方が身の為ですよ」 言われるまでもない。怒りで恐怖をねじ伏せるように絶叫する。『キングの前のポーンを二つ前に!』 「はい。基本に忠実、ダンナらしい一手です。では私は……そうですね……」 吸血女の手番になるや否や、灰の滝が一時的に収まった。人間狩りの双眸には紫の炎が迸る。さっきまでの笑顔は消え失せ、

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第151わ「死神の❝ゲーム❞」

(承前) 思えば遠くへ来たものだ。一年前の自分に「お前は吸血鬼とチェスをする運命にある」なんて言ったら信じてもらえるだろうか?きっと答えは❝否❞だ。 「最初の一手は?」 俺は「E4」とだけ言い放つ。キングの前に置かれたポーンを二歩前進させる手だ。果たして相手は、どう出るか。 「……いーふぉー?何ですか、ソレ」 衝撃。チェスそのものが児戯と見なされる吸血鬼の社会には記譜法というものが存在しないということなのか。よくよくチェス盤に目を凝らす。確かにAからHのファイル名も

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第150わ「連帯と倦怠」

(承前) ……視界の共有。現在、俺の視界は吸血女に筒抜けになっている。それさえ無ければ隙を見て妹との連絡を試みているのだが。 「私の視界を、そのままダンナの視界にしてあげるということです」 吸血女が指を鳴らすと生暖かい頭痛が広がっていく。危険な何かが脳に浸透しつつある。怯える暇もあらばこそ、視界に砂嵐が吹き荒れた。何が起きた?俺は棺桶に押し込められた俺の姿を見ている。そのイメージは古い新聞の写真のように不鮮明なモノクロームだ。 「今だけ特別ですよ。それ以上は解像度を高

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第149わ「続・雪花石膏のゲーム」

(承前) 「……そうでしたか。ダンナは盤面を見ないとチェスが出来ない人でしたか。文字通りに身動きもとれない状態で提案するぐらいですから、てっきり目隠しチェスにも堪能しているものかとばかり……」 無茶を言うな、と言いかけて思いとどまった。そういう芸当が可能な人間が親族にいるのを思い出したからだ。……我が祖父。関連する記憶が連鎖して甦る。俺がチェスを知った契機は幼少期に母親の実家で年代物の、それも石製のチェスセットを発見したことにあった。競技用の樹脂製ではない、一般的な木製の

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第148わ「雪花石膏のゲーム」

(承前) 吸血女の六本腕は、俺が思うよりも早く静かで、そして正確だった。盤上に駒が正しく並べられるまでの所要時間は一秒にも満たなかったからだ。 「何です、じっと見つめて。今更、私の腕が増えたぐらいで驚くことは無いでしょう?」 率直に言って驚いた。敵対者を縊る、抉る、引き千切るだけの腕だとばかり思っていたが、それに関しては俺の早計だったと認めるしかない。その高みに至るまで、何れ程の研鑽を積み重ね、何れ程の死線を掻い潜り、あるいは、何れ程の量の血を啜ったのか。 「ささ、言

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第147わ「徹底抗戦」

(承前) 時間逼迫、チェックメイト。……答えは既にそこにあった。チェスだ。思考力、視界、塞がれていない口、それから相手の協力さえあれば手足が不自由だろうともチェスは出来る。囲碁や将棋も悪くはないが、吸血鬼の貴族に「ルールが分からないので却下です」と言われるリスクは無視できない。 「へ?……チェスですか?私と、ダンナで?」 意表を突かれたという感じの吸血女の表情と声。チェス盤と駒ぐらいなら用意できるだろうに。それとも悠久の時を過ごす吸血鬼はチェスにさえ飽きて興味が失せたと