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狩りと採り8

10月13日と16日に松茸を取りにまた山に行った。昨年の不作とは比べものにならないほどの豊作だった。今年の松茸のピークは10月の中旬で通年より2週間ほど後ろにズレていた。16日はたくさん松茸が取れたので親にお裾分けしようと思い実家に寄ってみた。数日前に父が山に行った際の収穫のことも気になっていた。 実家に着くと母にこう言われた。 お父さん、毒きのこ取ってきたんだよ。 詳しく話を聞くとこうだった。父はA尾根の平らなところに着き、松茸を探しながら食きのこを取っていたそうだ。か

    • 狩りと採り7

      2023年の夏、今年80歳になる母の大腸にガンが見つかった。ステージは3に近い2ということで11月に手術を控えていた。そんな母から電話が来たのは10月10日のことだった。 アツシ、山に行ってるのかい? ガンを患い外出できなくなっても山のことは気になるのだろう。そう思った自分はやっと松茸が出始めたこと、今年の山はキノコが豊富であることを正直に伝えた。すると母はこう続けてきた。 お父さんを山に連れて行ってくれないかい? 一緒に山に行ってほしいということだった。母の話はこうだった。

      • 狩りと採り6

        2022年と23年は私の住む東北地方の夏の天候は対照的で異常だった。全国的だろ、と思われる方もいるかもしれないが、例年とは明らかに違う年だった。 2022年は7月の中旬頃から曇り空の日が目立つようになり8月になっても連日のように曇天が続いた。結局東北地方は梅雨明け宣言がされないまま8月が終わり、日照不足のまま秋へと向かっていった。 逆に23年は記憶にも新しいと思うが連日猛暑が続いた。9月に入ってからも35度を越えるような残暑が続き、やっと秋らしさを感じ始めたのは間もなく10月

        • 狩りと採り5

          8年振りに山に行く、そう考えただけで前の日は興奮して眠れなかった。予報では明日の天気は晴れ、山日和だった。抑えきれない興奮は酒で鎮めるしかなかった。頭の中には松茸がたくさん並んでいる光景が広がっていた。興奮と酔いの勝負の軍配が酔いに上がりなんとか寝付けたが次の日の朝4時半には目が覚めてしまった。早速身支度を整え2時間かけて山へと向かった。 山に着いた瞬間に違和感を感じた。車がやたらと多いのだ。いままでもキノコ採りに来た人の車を見かけることはあったがその日はあまりにも多かった。

        狩りと採り8

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        • 狩りと採り
          7本

        記事

          狩りと採り4

          この山には親父と一緒に中学の頃から通っていた。もちろんその頃の自分はキノコ採りをするなどというレベルではない。ここに松茸が出てると言われても見つけられないような有様だ。ただ親父の後ろについて歩くだけ、到底戦力外だ。でも山を歩くのはとても好きだった。気持ちよくそして清々しかった。初秋の山には夏の盛りから実りの季節へと移り変わる何とも言えない趣きがある。汗だくになりながら山を駆け巡り、ふと立ち止まると爽やかな秋の風が全身を撫でてゆく。周りではチッチゼミが鳴き、遠くを眺めると木々の

          狩りと採り4

          狩りと採り3

          この山はサメのヒレのような形をした尾根が南北に3つ連なっている。そのサメのヒレのてっぺん部分は西側を通る一つの林道で繋がっている。この3つの尾根を北から順にABCとすると父が入ったのは車が停めてあった位置からしてB尾根だった。一番厄介な尾根だった。というのもA尾根とB尾根、B尾根とC尾根の間にはそれぞれ沢が流れていて沢づたいは急な崖になっている。つまりA尾根とC尾根は沢に面している片側だけが急斜面だがB尾根は両側が沢に面しているので南北のどちらも急斜面なのだ。 自分の車を停め

          狩りと採り3

          狩りと採り2

          山で遭難した場合、体力を奪うのは雨と風だ。食料や飲料の有無に関わらず、この二つが同時に起きれば確実に体力を削っていく。だが今のところ風は穏やかで空には月と満天の星が輝いている。10月も下旬に差し掛かったが気温もさほど低くはない。もし父が負傷して動けなかったとしてもこの山が命を守ってくれるだろう。 そう自分に言い聞かせてスマホを取り出した。電波はギリギリ繋がっていた。妻に電話を掛けて車を見つけたこと、車に父はいなかったことを伝えた。そして警察へ電話を掛けた。集中力で自分の脳がと

          狩りと採り2

          狩りと採り

          昨年父が他界した。 80歳で身体に衰えはあったものの大病もなく健康ではあった。そんな父は1人で山にキノコ採りに出掛けて、斜面を滑落して帰らぬ人になった。 母から電話が来たのは夕方の18時くらいだったか。お父さんが帰ってこない、そんな内容だった。酒を飲んだ自分は妻に運転を頼み山へと向かった。自宅からは2時間くらい、妻に道案内をしながら着いたのは20時を過ぎた頃だった。 辺りは灯なんてものはない、真っ暗な山だ。慌てて家を出たので懐中電灯すら持ってなかった。ただ半月が南中近くに光っ

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