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かつて沼だった家

「こっちの方が500万円安かったのよ」

わたしが小学校に入学する時期に合わせて,わたしたち家族はA住宅地の建売住宅に引越してきた。

近くのB住宅地もやはり建売住宅だったので,どうしてこの家にしたのかを母に尋ねたところ,値段で決めたという身もふたもない回答を得た。

確かに,500万円の差は大きい。

というのも,わたしたち夫婦が家を買った時(買ってしまったのだ!),中古物件を買ったので,リノベーション費用を捻出した。

その時,何か1つ新しいことをしようとすると,10万円単位でお金が見積もられて,吹っ飛んでいくことを眼のあたりにして,500万円って結構大きな金額だと知ったからだ。

だってですよ,1000万円の2分の1ですわ。田舎の家だったら,土地付き中古物件が買えちゃうわ。

それで,件の家なのだが,B住宅地はその後,「地盤沈下」が激しく,引越す人が続出した欠陥住宅地だったことが判明した。

B住宅地の友人の家に遊びに行くと,鉛筆を床に転がすと,コロコロと斜めに勝手に転がっていった。

その様が面白くて,わたしたちは,何度も転がしては,地盤沈下ごっこをした。

近くの学校も地続きだったから,校舎の土台の土がめくれて,コンクリートむき出しの穴が開いていた。

校舎の壁の一部は,赤茶色に錆びた鉄筋がむき出しになっていた。その1つが,十字架に見えたり,明らかにオンボロ校舎だった。

雨の日なんて,灰色にコンクリートがぬらぬらと湿って,恐怖の館そのものだ。ホラーである。

人は環境に影響されるから,子どもだって同じだ。いつも目にする,いつも生活する場が廃墟のホラーだったら,やはり情操教育にはよろしくない。

だから,「ここは教育上よろしくない」という理由で,横浜に引越したB住宅の同級生もいた。

一応,この地域は,文教地区を標榜していて,大学もあるし,それなりに落ち着いた土地だ。

だけども,地盤沈下のオンボロ校舎であることには,違いない。

わたしは,音楽室の壁に貼ってある,ベートーヴェンやバッハの肖像画の絵がわたしをじっと見て追いかけているように見えていたし,いつもほの暗いから,ホラーだった。

だから,奉仕作業という校庭清掃の時には,その穴に校庭で拾い集めた石をぶっこむという,バベルの塔現代版みたいなことを延々とやっていた。

面白いことに,社会科で,「わたしたちの●●」という,地域の歴史を習うのだけど,そのB住宅地は,昔の名前は「●●沼」と呼ばれていた,沼地だったことを先生から教わった。

ぎゃふんである。

沼に立つ家!

沼に立つ学校!

事実,まだ近くの川が整備されていない時,台風で大水が出て,自衛隊が救助に来て,ボートに乗っていた友達もいた。

用水路に落ちて亡くなった子どもいたという。

そんな恐ろしい話を聞かされて,わたしたちは育った。

後に,風水を習った時,土地のエネルギーを見るには,風水盤も使うけれど,合わせて,古地図も読むことを教わった。

古地図に,「沼」「窪」「沢」など,みずっけのある感じがあったら,そこは,いくら,新しい名前に変わっていたとしても,水のはけのよくない土地だということ。

だから,水田も要注意だ。

水気のある土地は,湿気を呼び,衛生的にもよくないし,邪気が溜まるから注意をしなさい。

風水の先生はそういった。

風水の先生と,町を歩いて,みずっけのある場所を生えている植物からも観察した。

そういうことで,土地の歴史は土地のエネルギーを見るのに適している。

風水と言うと,家のエネルギーばかりをみてしまうが,実は土地のエネルギーも大事な要素だ。

そして,先述したように,人は環境に影響されるイキモノである。

どんな土地で,どんな人と,どんな風に関わってきたかが,その人のアイデンティティ(自分らしさ)となる。

主体的に自分が住まう環境を選ぶことも,教育の一環である。


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