夜間飛行
二人だけの時間。薄暗い部屋で、常夜灯を頼りに見つめる、一生懸命に乳を飲むほっぺた。お腹いっぱいになって、少し苦しそうに唸る声。縮こまって震える手足。そして安心したように脱力したときのその重さ。生まれた頃より確実に重くなったことに気づく、その喜び。こんな日はむしむしと汗ばんでしまう、もっちりと熱い体温。離れたくとも手放せない、身じろぎたいけれど鼻も掻けない。そんな母を知ってか知らずか、にやりと上がる片方の口角に、つられてふっと口元が緩む。
一人だけの時間。夜中の寝室の片隅で、大きな寝息ひとつと、ふたつの小さな寝息とを聴きながら、今を生きている、という実感抱きとめる。背中の筋肉がこわばるごと、腰に痛みが走るごとに、ずしりずしりと、胸の内が満ちていく。溺れそうな息苦しさの中で、やっぱりしっかりと吸い込んでおきたくて、ぱんぱんにふくれていく。
こんなにも静かだ。私も眠ろう。ゆっくりと沈み込むように浮遊して、それからみんなと手を繋ごう。
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