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【🇹🇼クウェート大学#11】海を知らぬ少女の前に...


暑すぎる!!!!


9月27日

私はクウェート大学に語学留学している。

勤勉(ムジュタヒド)な学生なので、在籍している初心者クラスだけでなく、上級クラスにも出席している。

初心者クラスは朝8:30から11:30まで。
上級クラスは日により異なるが、今日は13:30から15:30ごろまで。

初心者クラスは正直なところ物足りない内容である。今日もアルファベットの書き方と、ちょっとしたスピーキングの練習で終わった。そのため、クラスからの離脱者が多い。

しかしそれが幸いし、今では出席者が9名ほどしかいない。
さらにそのうち5名はアルファベットも知らない初心者なので、発言する(できる)学生はかなり少ない。
意外と美味しいクラスではある。


実は昨日、初心者クラスを担当するイブラーヒーム教授は誕生日だったらしい。
誰も祝ってくれなかったことを嘆いていた。

その後、タジキスタンの学生が脱走するという事件が起こった。
タジキスタンの彼は、アラビア語も英語もそんなに得意ではない。なにゆえ脱走したのか、よく分からない。
教授は怒っていた。

しばらくすると、彼は帰って来た。
どうやら寮の自室に戻り、プレゼントをとってきたらしい。

香水らしい。かわいい。


タジキスタンの伝統的な衣装を纏った陶器の人形?である。
帽子のことをタキーヤ、服のことをジャマーというらしい。

気の利いたプレゼントだ。
教授も嬉しそうだ。


授業内容は簡単だが、意外な収穫もある。
その一つが、単語の知識だ。

アラビア語には日本同様、オノマトペのようなものがある。今日はそれを習った。
いくつか紹介する。

ダブダブ(دبدب)
音を立てて走ったり歩いたりする様子。日本語で言うと「バタバタ」だろうか。

ザヌザヌ(زنزن)/ワヌワヌ(ونون)
機械や人が放つ不快な音。低音でザヌザヌと言い続けると、換気扇みたいに聞こえる(?)

ザブザブ(ذبذب)
モノが震える音。スマホのバイブレーションとかもこれ。

ハルハル(خرخر)
喉の奥でカラカラ言う音。どんなシチュエーションで使うのだろうか。


午後のクラスは難しい。
例えわからなくても、一単語も英語を使ってはいけない。
何年かクウェートに住んでいるアフガンのムハンマドですら、難しいと言っていたくらいだ。

明日は預言者ムハンマドの誕生日ということで、宗教の話がオープニングでされた。
私の専攻に関わるので、意外と単語の意味が分かった。そしてこの日ほとんど唯一と言える、意味のある発言もできた。
「ズー・ル=カルナイン」(二本角)という単語を生まれて初めて発した。
意味のない学びなどないのだ!

他には何も分からなかった。
固有名詞を頼りに、なんとか話の方向性を探ることしかできない。

私は誠実な学生なので、周りの邪魔にならないよう、静かに寝た。


授業後、台湾の学生たちの提案で海に行くことになった。

学校の裏手には海がある。
裏手とはいえ、しばらく歩く必要があるが。

暑い
人口河川的なものがある。全く涼しくない。見ていると腹が立ってくる。

いつまで歩いても、海に辿りつかない。
今日は引き潮のようだ。

他の学生たちは帰ることを主張し始めた。流石に暑すぎるらしい。

結局私一人が海まで歩くことになった。

台湾のみんなは快く送り出してくれた。
(「ジャパニーズ・クレイジーボーイ」というあだ名をつけられたが。)

とはいえ、心優しい台湾の友人は応援メッセージをくれた


みんなは、クウェートの海の美しさを知らない。
私は何時間かけてでも、海まで歩いてみせる。

そして、海の雄大さを教えるのだ。

海を知らぬ少女の前に
麦藁帽のわれは両手を広げていたり

寺山 修司
海を知らぬ台湾少女の前に
ドジャース帽のわれは両手を広げていたり

私は歩き続けた。
そして浜辺に辿りついた。

後ろを振り向くとルームメイトが居た。追いかけてくれたらしい。

正直、私は歩き続けたことを後悔しつつあった。
あまりにも臭いし汚い浜辺だったからだ。

我々のキャンパスは工業区域にある。
ゴミや海洋汚染がひどい地域だ。
発展の裏には環境破壊がある。

ゴミまみれ
植物は死に絶えている。

緑色の泥(ヘドロ)が一面に広がる。
100メートルの泥濘地帯を突破した先に、工業廃水まみれの海が待っている。

ルームメイトは、無謀にも海に突入することを提案した。
彼は自分をモーセか何かだと思っているのだろうか?

ルームメイトは泥に入り込んで行った。
しかしもとよりガムテープで補強しているような靴。哀れにも靴はぬかるみに囚われてしまった。

靴としての生命は絶たれた。


私は彼の靴を救うべく、汚泥の中に進んで行った。
結果として、私も泥まみれになり、お気に入りのスニーカーを汚してしまうことになった。


意気消沈して帰宅する。
40度近い灼熱の大地を歩き、心身ともに消耗しきっていた。

友人は噴水(?)で全身を洗っていた

寮の入り口付近でロシアのムハンマドとすれ違った。

奇遇なことに、今から海に歩くらしい。

つい先ほど海に行って来たことを伝えると、「それは本物の海では無い」と言われてしまった。
ムハンマドは私を綺麗な海へのハイキングに誘ってくれた。

「海を知らぬ我」の前に、ムハンマドが両手を広げているかのようだ。

「ちなみに何分かかるのさ?」

「たった3時間だよ。涼しくなってきたし、丁度いいだろう?」


私は泥まみれの服をランドリーで洗った。

ランドリーではマレーシアの二人組に会った。
彼らは、噴水に飛び込んだ友人の「勇気」を褒めたたえた。

「勇敢さは大好きだ!」


家に帰ってアラビア語の勉強をする。

しかし疲れて頭に入ってこない。
5時間授業に出て、3時間歩き、2時間洗濯したのだ。無理もないことだと思う。

寝る前にスマホを見た。二つの連絡が印象的だっだ。

ムハンマドは3時間歩き、綺麗な海に到着したという。
日本語を勉強している彼に、「レベチ」というナウい言葉をおしえてあげた。

台湾の友人からも連絡が来ていた。
インターネットで調べた「ほんとうの海」の場所を教えてくれた。

「こんどみんなで行こう」

こうチャットして、寝ることにした。

今度こそ、綺麗な海を見に行こう。
そして、クウェートの海を知らない人に会ったら、両手を広げてその雄大さを伝えるのだ。

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