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夢うつつ湯治日記 11

10月某日 初めての湯治

【五日目(1)】 朝採れの秋の枝豆


いよいよ滞在も今日1日を残すところとなった。

思えば天界の国にでもいるような、ゆったりした時間だった。
明日は「下界」に戻らなければならない。

今日一日、大事に過ごしたい。

幸い、今日も1日、お天気に恵まれそうだ。

まずは、朝の恒例、公民館前の朝市に出かけようと部屋を出る。

宿の母屋の前では、いつものように、宿のワンコが慣れた様子でこちらをチラリと見る。

「おはよう」

と声をかけると、しっぽをちょっと振って、また眠った。

そういえばここに最初に日には、猫もいたなぁ。あの猫はどこにいるのだろう?
気ままに過ごしているのか、その後、見かけない。

宿を出て、いつものように、公民館のある方へ、坂道を登っていく。

野菜を積んだ軽トラが私を追い越していった。

いつものように、人々が三々五々、集まってくる。

そうだ、明日からの「下界」での食生活用の野菜や果物も買っておこう。

いつものように、シートの上に野菜を売るおばあちゃん達、軽トラに果物乗せて売っているおじちゃん。

10月も中旬、野菜は、なごりの夏野菜に加え、秋の野菜に、キノコや果物も加わり、賑やかだ。

あまりみかけない形のキノコがあった。

「このキノコ、なんという名ですか?」

「〇〇タケと行ってね、このあたりでよく食べるキノコだよ。今年は雨が多かったせいか、よく採れるよ」

「どうやって食べるんですか?」

「味噌汁に入れたり、蕎麦の具にしたりするねぇ。クセもなくて美味しいよ」

1パック買ってみる。

枝豆もある。さやが沢山、株に付いたままの形で売られている。

「秋なのに枝豆があるんですね?」

「枝豆の本当の旬は9月~10月中頃なんだよ。今の時期のは味が濃いよ。今は夏に出る早生のものが多いんだけどね」

へぇ!そうなんだ!

「明日帰るんですが、明日まで持ちますかねぇ?」

「まあ、明日なら持つけれど、でもこれ、今朝採ったものでね、やっぱり採れたてをすぐ茹でてすぐ食べるのが
一番美味しいんだよ…」

そうか…、なら今朝の朝食は茹で枝豆にしよう!
枝豆はビールのつまみだけではない。若い大豆なんだから、ヘルシーなたんぱく源である。

「一束下さい」

「はい、ありがとう。ゆで時間は沸騰した湯に塩入れて、3~4分くらいで良いよ」

と売り子のおばあちゃんは言いながら、新聞紙に株付きのまま包んで渡してくれた。


昨日買ったシフォンケーキ、美味しかったな。今日は来てないのかな?

ふと周りを見回したが、昨日よりも出店が少ない。

「今日はお店が少ないですよね?」

おばあちゃんに聞くと、

「ああ、今日明日と、運動公園で収穫村祭りがあるからね、そっちの準備で忙しい人が多いんだよ」

と、公民館入り口に貼られたポスターを指した。

昨日も見た「秋の収穫村祭り」のポスターである。

やはり今日はその収穫村祭りに行ってみよう。


宿に戻り、母屋の炊飯室で、枝豆を茹でる準備をする。
ごわごわとした毛に包まれているさやは、どれもぷっくり膨らんでいる。

株からさやを外す作業をしていると、炊飯室の戸が開いて、「おはようございます」とセツさんが顔を出した。

「おはようございます」

と答えると、セツさんは、

「またクロモジ茶入れたから、良かったら飲んでね」

と行って、また戻っていった。

クロモジ茶、美味しかったからまた飲みたいな。

部屋に戻って、マグカップと、茹でた枝豆を入れる皿も持ってきた。


さて枝豆は、朝市で教わった通り、塩を加えた熱湯で4分程茹でた。

マグカップにクロモジ茶も入れて部屋に戻り、朝食タイム。

今朝のメニューは、採れたて枝豆を茹でたものと、昨日買った柿の1つ、そしてクロモジ茶。

朝食としては変わったメニューだけど、ヘルシーいえばヘルシーである。

「本当の旬は秋」というだけあって、秋の枝豆は確かに味が濃い。そして新鮮なせいか、甘みがあって美味しい。

朝採れたての茹でたてをアチアチと言いながら食べる。、

お茶と枝豆も案外合う…というかビールでなくても枝豆は美味しいのだ。

そして柿を剥いた。

昨日の朝市で教わった柿の皮チップスを、明日帰宅してから作ろうと、剥いた皮をラップに包んで冷蔵庫に入れた。

エコな気分にもなって楽しい。

窓から日が差してきた。

マグカップの残りのクロモジ茶を飲みながら、窓辺に置いた小さな菊の花の苗を見る。

いよいよ今日は最後の1日。

有意義に過ごそう。

(つづく)



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