マガジンのカバー画像

端山茂山奇譚

14
とある山の奇譚。目に見えるモノ、見えないモノ、人間、動物、有象無象のモノたちが織りなす幻想。
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

端山茂山奇譚 (伍)

端山茂山奇譚 (伍)

端山茂山奇譚 (伍)

山の頂に近いがな、ここにはいつも水が湧く。

湧いてここの岩の洞に溜まる。

昔、偉い坊さんがこの洞の水を見つけて、名付けた。

この水を飲むといいぞ。
生きる者は、どんな病気も癒える。
死して餓鬼道に落ちたものも、この水で極楽に行ける。

誰がそう言ったって?
その偉い坊さんが言ったんだ…とおれは聞いた。

とにかく信じる者は救われるんだ…これは、別の偉い坊さんが言ってた

もっとみる
端山茂山奇譚 (肆)

端山茂山奇譚 (肆)

端山茂山奇譚 (肆)

へえ、この川の匂いがわかるか。

酒の香りがするって。

この匂いがわかるんなら、教えてやるよ。

この川の上流で、酒を醸し続けている岩があるって話だぜ。

行ってみるかい?

おいらは一緒にいけないな。テリトリーが違うんだ。

行ったことないのに、どうして知ってるんだって?

そりゃあ、川の水から聞いたのよ。その岩のことを。

このあいだも、同じようなやつがいたから、同じ

もっとみる
端山茂山奇譚 (参)

端山茂山奇譚 (参)

端山茂山奇譚 (参)

ここでなにをやっておる。

夜のとばりが下りてきたのに、なぜまだここにおる。

夜は、ここは神々のしとねの場だ。

おまえら人間がいられる場でない。

…ああ、黒雲が湧いてきた。

そこの岩の孔から湧くのだ。

しとねを覆うためにな。

雷鳴が鳴り始めたな。

ふうん、まだ帰らぬか。

閃光が始まった。早くここから立去れ。

早く!

立去らぬと…。

ほら、言わぬことでは

もっとみる
端山茂山奇譚 (弐)

端山茂山奇譚 (弐)

端山茂山奇譚 (弐)

ああ、またあの海がぼうっと青く光る時が来たか。

山の端の向こうに続く海が。

水無月の塑月の夜がまた巡ってきた。
水無月の塑月の夜にだけ、あの海が青く光る。

晴れた、穏やかな、月のない塑月の夜にだけ、この山から見ることが出来る。

この修行の山で、運の良い行者しか見ることは出来ないが、
あの光を見た修行者が代々、語り継いでいる。

今年も見ることが出来た。

この光、あ

もっとみる