マガジンのカバー画像

端山茂山奇譚

10
とある山の奇譚。目に見えるモノ、見えないモノ、人間、動物、有象無象のモノたちが織りなす幻想。
運営しているクリエイター

記事一覧

端山茂山奇譚(拾)

端山茂山奇譚(拾)

端山茂山奇譚(拾)

なんだあれは。

薄暗くぼうっとした霧みたいなものが、こちらに来る。
流れてくるような、もつれて転がるような・・・。

鳥たちが叫びながら逃げておる、

禍々しい気に満ちているな。

生臭い匂いだ。唸り声も聞こえる。

…ああ、生きておったものたちの、うらみつらみの念の塊か。

なんで、ここまで上がってきたのか。

…昨日からあの庵から聞こえてくる、音と声のせいか。

何かを

もっとみる
端山茂山奇譚(玖)

端山茂山奇譚(玖)

端山茂山奇譚(玖)

ずっとあの遠くの山を見ているな。

白い頂の美しい形の山。

どの山よりも高くそびえている。

昔、天の神が、あの山に宿を求めたが、祭りの晩で、断られたそうだ。

そこで今度は、天の神は、この宿に宿を求めたら、同じく祭りの晩だったが、丁寧にもてなしたそうだ。

そこで、天の神は、宿を断ったあの高い山は人が近づかない呪いをかけ、あのように一年の多くを雪が閉ざし、
草木も生えぬ山

もっとみる
端山茂山奇譚(捌)

端山茂山奇譚(捌)

端山茂山奇譚(捌)

この季節はいい。

風が気持ち良い。

お前は何をみているのだ?

ああ、眼下に広がる、あの鏡のように光る広い田を見ているのか。

まだ若い稲の葉が揺れておるようだ。

そして山の中では、かぐわしい花の香り。

時じく香具の実の花の香り。

まさしく天上の天女の香り。

秋になると実る 時じく香具の実。
実は、花とは違う香りだが、これまた良い香りがする。

実は甘酸っぱく、皮

もっとみる
端山茂山奇譚(漆)

端山茂山奇譚(漆)

端山茂山奇譚(漆)

おお、来た来た。

わたしの新しい衣を神輿に載せて、麓から人間たちが登ってきた。

春から夏への装いに変えて、わたしは山の麓に降りよう。

草木がよく茂り、地の恵みがよく育つように、私は麓に降りよう。

大地の気が 恵みに繋がるように。

代わりにわたしの子らが、山に行く。

秋も深まる頃、また新しい衣を持って、人間たちが山に上がってくる。

私も一緒に山の社に行く。
そして

もっとみる
端山茂山奇譚 (陸)

端山茂山奇譚 (陸)

端山茂山奇譚(陸)

ああ、よく寝た。

花の香りがここまで漂ってくる。

外に出てみるか。

風は冷たいな。体がまだよく動かん。

日の光に少し温まろうか。

身体半分でも、温まるだろう。

・・・なんだ、騒がしくなってきたな。・・・ああ、人間どもが来ておる。

花を見に来たのか。

逃げたいが、身体が動かん・・・。

うわ、わしを触ろうとするやつがおる。人間の子どもか。かなわんな。

なんだと

もっとみる
端山茂山奇譚 (伍)

端山茂山奇譚 (伍)

端山茂山奇譚 (伍)

山の頂に近いがな、ここにはいつも水が湧く。

湧いてここの岩の洞に溜まる。

昔、偉い坊さんがこの洞の水を見つけて、名付けた。

この水を飲むといいぞ。
生きる者は、どんな病気も癒える。
死して餓鬼道に落ちたものも、この水で極楽に行ける。

誰がそう言ったって?
その偉い坊さんが言ったんだ…とおれは聞いた。

とにかく信じる者は救われるんだ…これは、別の偉い坊さんが言ってた

もっとみる
端山茂山奇譚 (肆)

端山茂山奇譚 (肆)

端山茂山奇譚 (肆)

へえ、この川の匂いがわかるか。

酒の香りがするって。

この匂いがわかるんなら、教えてやるよ。

この川の上流で、酒を醸し続けている岩があるって話だぜ。

行ってみるかい?

おいらは一緒にいけないな。テリトリーが違うんだ。

行ったことないのに、どうして知ってるんだって?

そりゃあ、川の水から聞いたのよ。その岩のことを。

このあいだも、同じようなやつがいたから、同じ

もっとみる
端山茂山奇譚 (参)

端山茂山奇譚 (参)

端山茂山奇譚 (参)

ここでなにをやっておる。

夜のとばりが下りてきたのに、なぜまだここにおる。

夜は、ここは神々のしとねの場だ。

おまえら人間がいられる場でない。

…ああ、黒雲が湧いてきた。

そこの岩の孔から湧くのだ。

しとねを覆うためにな。

雷鳴が鳴り始めたな。

ふうん、まだ帰らぬか。

閃光が始まった。早くここから立去れ。

早く!

立去らぬと…。

ほら、言わぬことでは

もっとみる
端山茂山奇譚 (弐)

端山茂山奇譚 (弐)

端山茂山奇譚 (弐)

ああ、またあの海がぼうっと青く光る時が来たか。

山の端の向こうに続く海が。

水無月の塑月の夜がまた巡ってきた。
水無月の塑月の夜にだけ、あの海が青く光る。

晴れた、穏やかな、月のない塑月の夜にだけ、この山から見ることが出来る。

この修行の山で、運の良い行者しか見ることは出来ないが、
あの光を見た修行者が代々、語り継いでいる。

今年も見ることが出来た。

この光、あ

もっとみる
端山茂山奇譚 (壱)

端山茂山奇譚 (壱)

端山茂山奇譚(壱)

 

1人かい? こんなところで何やってるんだ?

ふうん、修行?

なんの? 神通力を持つための?

なんで? 人の病気を治したい…殊勝な心掛けだな。

おいらかい? おいらは人間じゃないよ。

わかってるって? だろうな。
遠い昔は、人間だったかもしれないが、忘れた。
人間じゃない時もあったかもしれない。忘れた。

へえ、お前はおいらを怖がらないのかい。
そうかい、気に入

もっとみる