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生き抜くことを支える ケア衣料ブランドケアウィル パートナーセッション (株)ハレ 代表取締役 前田和哉様 レポート 前編

ケアウィルでは、メンバーが集まり全体方針の共有や、チーム間連携をはかるための全体MTGを週次で開催しています。2021年5月からはケアウィルの法人パートナーの代表やスタッフのみなさんをゲストにお招きする「パートナーセッション」を実施しています。今回のゲストは、株式会社ハレ 代表取締役 前田和哉様です。前田様はかなえるナースというサービスを提供されており、先日取材記事も公開いたしました。まだお読みいただいていない方はぜひご覧ください。

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株式会社ハレ 代表取締役
看護師/保健師
前田 和哉氏
1986年、大阪府生まれ。
2009年3月、京都大学 医学部保健学科 看護学専攻 卒業。
大学卒業後、聖隷福祉事業団 聖隷浜松病院 救急科集中治療室にて5年間の臨床経験を積む。
2014年よりケアプロ株式会社 ケアプロ訪問看護ステーション東京にて4年間勤務。訪問看護師、事業所長、在宅医療事業部責任者を歴任。
2016年より日本看護連盟役員 青年部担当幹事。同年より都内専門学校にて非常勤講師も勤める。
2015年に末期がんの義母にフォトウェディングをプレゼントし、大きな感動を経験。一方で訪問看護事業の経験を通じ、ニーズに合った外出向けサービスが、業界に普及していないことを痛感する。
2018年、株式会社ハレを設立し、本事業を開始する。


この記事は、2021年7月に実施したパートナーセッションの書き起こし記事 前編です。


「生き抜く」ことを支えるかなえるナース


ーー過去の現場での悔しさ、もっとこうしたかったという想いが事業の原動力になってる印象を受けました。かなえるナースを立ち上げてから現在に至るまで、ぶつかった壁や悔しいと思ったこと、それを乗り越えた経験を教えてください。

前田さん:事業を立ち上げてから挫折されたことが結構いっぱいありませんか?とよく聞かれます。あまりぱっと思い浮かばないんですね。そういう意味では、まだチャレンジが足りないんじゃないかと思います(笑)。事業をスタートさせる前のほうが、悔しさが大きかった、不便を感じることが多かったと思います。

過去に集中治療室に勤めていた時に、患者さんの自由がまるでない状況に対して悔しさを強く感じていました。医療を提供するのは、僕はサービス業だと考えています。サービス業って、自分がしてもらいたいことを提供することが基本だと思うのですが・・・それが全然できなかった。自分ならこんなこと絶対されたくないけれど、、と思うような処置を患者さんにせざるを得ず、違和感やしんどさを感じていました。今はそれがあまりありません。

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それから、僕、壁にぶつかっていても、あまりその自覚がないタイプなんですよね(メンバー一同笑う)。それがいいところだと言ってもらえればそうかもしれないのですが、うまくいかないことって結構たくさんあって。例えば、この仕事は特殊なので、普通に訪問看護を提供するよりもはるかに理解されづらいというデメリットがあります。「なんですかそれ?」という反応から始まるので、「〇〇の医療バージョンです」、のように、類似するサービスに例えられなくて、営業してもなかなか伝わらないことがありました。やっていることが多岐にわたるから、というのもありますね。その点には弱みを感じたりしていました。

悔しいと思ったこととしては、サービスの提供が間に合わなかったときです。家に帰りたいとおっしゃっていた患者さんに、じゃぁ週明け帰りましょうねと約束していたのに、週末に亡くなってしまうこともあります。それはかなえるナースが、サービスを利用してくださった方へ、写真を即日納品する理由でもあります。過去に、温泉旅行をサポートさせていただいた方に、「今度写真を持っていきますね」、とお伝えしていたにもかかわらず、お届けしたときには意識がなくなっていたことがありました。せっかくの思い出の写真をご本人にご覧いただけなくて、とても悔しかった。

それ以来、当日どれだけしんどくても、写真を現像しに行って、1枚だけでもベッドサイドに置かせていただくようにしています。僕はあまりガッツがあるタイプではないのですが(笑)、この経験の悔しさだけは強く残っていて、毎回欠かさないルーティンになっています。

ーーこれまで多くの方をサポートされてきた中で、印象に残っているエピソードを教えてください。

前田さん:がんの末期だと告知されて、ご自宅に帰られた方のお話しです。お孫さんが無邪気に、まだ病院にいらっしゃった頃「おばあちゃん、死ぬ前にやりたいことってある?」と質問して、ご本人は3つの願いをおっしゃっていました。まずは家に帰りたい、家族みんなで集まりたい、近所の方とお茶をしたい、といったことでした。

そして、この方はご自身がおっしゃった願いの3つめが叶った日の午後にお亡くなりになられました。亡くなる一週間前頃には、ひどい脳梗塞を再発されて、会話もできなくなりましたし、息も絶え絶えで、いつ亡くなってもおかしくない状態だったんです。それなのに最後までやりきった。ご本人が願いを全てやりきってから旅立たれたことが、とてもドラマチックだと思いました。

僕の中で「生き抜くことを支える」が一つの大きなテーマなんですね。最初にお話しした悔しさの原体験は、生き抜くことを支えられなかったことです。

医療をやっていると「救われない」ケースが結構あります。医療を提供するこちら側も救われない気持ちになること、悔しさを感じるケースもあります。でも、先ほどの女性の話は、人生のゴールテープを切ったんだなぁ・・こういう、人生をやり切る、生き抜く方をもっと増やしたいな、という想いにさせられた経験でした。

ーーご家族の心に変化があったエピソードもおありとか。聞かせてもらえますか?

前田さん:沖縄に帰ると強く主張された末期がんの方がいらっしゃいました。その方のご様子を見るに、血圧がかなり下がっていて、あと数日の命のように見えました。その方がどうしても帰りたいと言います。ご姉妹もつれて帰ってあげたいと、東京まで迎えに来るほどの熱の入れようでした。

では行きましょう、ということで沖縄の転院先の病院までお連れすると、お父様と久しぶりの対面。ニコニコしながらお話しをされていたのですが、他のご家族が号泣しはじめて・・。理由をお伺いすると、「ずっと仲が悪く30年間親子の会話がなかったのに、お兄さんとお父さんが話している」「奇跡が起きた」と。私の中にもじんわりしたものが広がりました。

ーーかなえるナースのサービスを提供することで、利用者の方やご家族の人生会議であったり、ご家族の関係性が変わるきっかけのところに関わることにもなるのではないでしょうか。

前田さん:自分が提供するサービスは、「●●にいけたからよかったね」という話だけではなくて、それによって家族関係が変わるとか、家族が「やりきった」と思えるためのものなのかな、と感じることが、初期に既にありました。

18歳のときに、自分の父親が中国で事故に遭って亡くなりました。その際に、遺体が焼かれてから帰ってきてしまったため、僕は亡骸と対面できなかったんですね。自分の中で「グリーフ」といい方をするのですが、「悲しみ」から抜け出せず宙ぶらりんになっているのではと思うときがあります。人が亡くなった後に、うまく悲しめなくて、わだかまりを残してしまう方もいらっしゃいます。気持ちがわかる分、そういうご家族を減らしたい、という想いがあるのかもしれません。


チームの根底にあるものは「患者さんへのリスペクト」


ーーかなえるナースは、コアメンバー数名で運営し、看護師の方とチームを組んで価値を提供されていらっしゃいます。チームで仕事をする際に大切にされていらっしゃることは何ですか。

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前田さん:当社の理念の話をさせていただきます。社名でもある「HARE」の4文字に、それぞれ自分たちの考えをあてています。採用のときも、仕事ができることが優先ではなく、とにかく優しい人を採用するようにしています。やっつけ仕事は絶対しない、ひとつひとつ魂を宿らせた仕事をしたいです。また、細かいところに手が届く、これは不便だけどあきらめてそこそこにしておこうよ、というのはあまり好きじゃないので、不便なものは解消しよう、とこだわりを持って取り組んでいます。

また、利用者である患者さんをリスペクトすること。当たり前のように聞こえますが、忙しすぎる医療業界では、当たり前ではなくなってしまっているところもあります。医療者が疲弊している構造は不健全ですし、逆に患者さんだけが我慢している状況も多くあるような気がします。お互いに感動できる仕事を積み重ねていきたいと思っています。以上のこの4つを大切にしています。

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前職での反省として、自分も無理をしていて、部下にもフル回転で頑張ってもらうのが当たり前と思っていたんです。でも、それではうまくいかないですね。いつも全速力で動いていると、緊急時に舵をきれませんでした。「がんばらなくちゃいけない」その思い込みを捨てたのがよかったですね。僕もがんばりすぎない、みんなも頑張らせすぎない。その決断をするのはとても勇気がいりましたが、ある程度のリミッターをかけて、相手に求めすぎない、自分に対しても求めすぎないという心算でいるようにしています。こだわりを持って仕事をする部分と相反するところもあるかなとは思いますが、意外と両立できている気がします。

ーー無理をしない、というのがとてもいいなと思いました。前田さんと笈沼さん、取り組んでいらっしゃることも、性格も全然違いますが、やっていることの根底にあるものが似ていると感じます。

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患者さん本人の想いに寄り添い、生き抜くことを支えるかなえるナースは、患者さんのご家族の気持ちにも寄り添い、家族関係を変えるきっかけにもなり得るサービスです。その背景には、患者さんへのリスペクト、そして、チームでこだわりを持ちながらも無理をしない、という行動指針がありました。


先日も東京新聞にかなえるナースさんの記事が掲載されていたのでご紹介します。

carewillはケア衣料を「​​人が生まれてから死を迎えるまでケアを必要とするシーンにおける、自ら着たい、選びたい、着て人と会いたい、というユーザーの意思を第一に尊重し、ケアをする人にとっても賢い機能を兼ね備えた服」と定義しています。かなえるナースさんのサービスとcarewillの製品・サービスの共通項がここにありました。

後編では、アーリーリタイアされた看護師の方や、高齢者の方の活躍の場を創る取り組み、かなえるナースのチームの根底にある価値観についてお話しを伺いました。そちらもぜひお読みください。




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